「家族のこれから-9」
風呂から上がったサディクは菊を呼び、浴衣を着せてもらった。 「習慣化されるほどに、ここにいらっしゃった…でも帰化などはされてませんよね、恐らくですけれど…」 確信に近い所をつかれ、言葉につまる。 「…う…すいやせん…思い出せなくて。」 「あ、すみません、攻めるつもりは毛頭ありませんでしたが…」 菊は慌てて手を振った。そういう意図でないのは解っている。ただ自分を不甲斐なく思っただけである。 「すみません、徐々に思い出していけばいいといいながら…」 「いや、そんな。不甲斐ないのは俺でさあ。早く思い出すに超した事はないですからねぃ。」 はやく追い出したいからではなく、心配だからこそでた言葉だろう。それにしてもこの男は居候等に気を使い過ぎだと思う。 「それより、菊さんの飯、うまいですぜ。ほんと、すげえや」 菊の罪悪感を払拭したくて、ありついている飯の感想をいった。だがごく正直な感想だった。 炊き方が上手いのだろう、ふっくらして、つやがあり。噛むと甘く、いい歯ごたえで上手い。 「そんな、人並み程度にしか出来ませんで」 謙遜する菊。なんだかこの人との会話では、これが極端に多い気がする。素直にありがとうといえないのが日本人なのだろうかと思っていれば、菊は嬉しそうに言った。 「ふふ、けれど…普段はハーク君だけでしたので、そういってくれるのは。嬉しいものですね。」 そしてありがとうございます。と付け加えた。 「…はは、これからは俺も、毎日褒めますぜ。」 世辞等何一つなくそう言うと、また、お上手なんですからと菊は笑った。 それから他愛のないことを話しながら飯を進めた。 飯は2杯おかわりした。うまくてすぐに空になってしまう茶碗に、次々と菊がよそってくれたからだ。食べ終わった後にしまったと後悔したが後の祭り。飯は腹のなかだ。 大飯ぐらいですみませんと謝ると。いえいえ、見ていて気持ちよいくらいの食べっぷりでしたと笑われた。気恥ずかしかったが、菊の言葉は嘘ではないのを知っている。 この甘さにつけこんでは行けないと思いつつ。あまりに心地が良いので甘えてしまうのだ。 だが受けた礼は忘れないのがトルコ人だ。 必ず返す。これから一生をかけて。 出来ればそばに居て。という淡い野望を秘めた決心をますます固めるサディクであった。 |
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