「おまえなんかに養って欲しくない…」
「…ほう?じゃ俺ぁ昼はずっと菊さんと一緒にいれるから別にいいけどねぃ!」
相変わらずの反撃に、にやりとサディクは笑って答える。
その言葉に、一本取られたと思ったのか。まずい事を言ってしまったと思ったのか。
「!?ううう…はやくでてけ!」
そういうと巻き終わったえさ袋を持って、ヘラクレスは座っているサディクの隣から、つっかけを凄い勢いで脱ぎ、どたどたと家の中に入っていく。
余程悔しかったのだろうか。今朝の事もひっくるめ。
「それ、捨て台詞だぜぃ…」
本日朝から今まで、快勝してしまったサディクはさすがにすこし大人げなかったかと少し思うが、明日からも、こううまくいくとは限らないのでいいのだと思う事にした。それほどにヘラクレスは手強い。
そこんとこだけは認めてやらあな。
菊を思う気持ちの大きさだけは。
暮れ行く陽を眺めながら、大きく伸びをした。
小さな袋の少ない餌はすぐになくなり、猫はそれぞれにまた散っていく。
食べ物をくれて、可愛がってくれるヘラクレスが、もういってしまったこともあるのだろうか。
それにしても随分と聞き分けがいい。
毎日こんなことをやっているからだろうか。だが、少しでも、日々の糧が欲しいのだと訴えるような猫達の背。ヘラクレスがやっていることは決して、無駄な事ではないようだ。
「にゃあん…」
一匹足下にまだ小さいやせた猫がすり寄ってきた。
もしかしたら新入りなのかもしれない。まだこの家のルールが解っていないのだ。
サディクにすり寄っても何もでないというのに。
「…わりいな、俺も居候の身だからな。おまえにゃなんもやれねぇよ。」
そう言いながら撫でてやる。愛想良くごろごろと猫は喉を鳴らす。
可愛い物だと思う。
だが、生きていくのに必死なのだという事も良くわかる。それは自分も同じだ。
元気になり、記憶さえ取り戻せば。いや、自分の名が解ればこの家にいる理由もない。
だが、サディクとしてはそうなったとしても、ずっと菊と付き合っていきたいと考えている。
自分はこの国が好きなのだ。
きっと、それは記憶を失う前でもそうで、それは変わらないのだろうと思う。
そして今回の事でそれがさらに強固なものとなった。
その理由はもう、薄々解っている。家族になりたい理由だって。
後ろめたいどころではない。
それでも。
「………なんだもんな…」
感謝の気持ち、それ以上に育っている気持ち。
誰にも言わずに、終わらせる事が出来たら一番良いのかもしれない。
けれどもうそれも無理な所まで来てしまっているような気がした。たった数日。けれどもうかけがえのない人になっているのだから。
「…夕飯、作らなきゃな…」
菊はまだ、帰ってこない。
暮れ行く陽はあたりを真っ赤に染め上げていた。
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