それにしても、そこそこの出費になってしまっただろう。
菊はあまり安価の物を買いたがらなかった。あまりに安い物は、すぐにほつれたりしてあまり持たないのだと言った。でもこれは安くてもかなり持つんですよと靴下は安めの物だった。かなり得意げで誇らしげだったのを可愛いなと思って見ていたが。
やっぱり金銭面でも結構苦労しているんだなとサディクは思う。
長く持つ事を考えればそちらのほうが安く付く。
物は大切にしましょうか。もったいない精神のいい教えだ。それをあの子供、ハークは守っているのだろうか。
いや、菊の教えだから守っているのだろうなと思う。
…今更ながらあの子供の本当の親の顔が見てみたいものだと、倒れた時に思った事をもう一度思った。だが途端頭痛が襲い、思考は中断した。
「サディクさん?」
店での買い物を終え、家路を歩いている時の事だったため菊にはしっかりと見られていたようだ。
「や、ちょっと頭痛がしただけなんで…」
本当に大した事はなかった。すぐそれは収まったからだ。
だが、菊にはやっぱり無理をされていませんか?と心配そうな顔で覗き込まれる。
「…ほら、病み上がりですのに、全部持つなんて無理をなさるから…」
そう言いながら、サディクの手から紙袋や買い物袋を奪おうとする。
当然ながらサディクはその手から逃れる為に、後ろ手に隠した。
「いえいえいえいえ!これくらい役立たねえと…ホント俺が心ぐるしいんでさあっ。」
曲がりない本音である。だが今にも触れそうになった手に驚いたのも本当だった。
どきどきと心臓が音を立ててたまらない。
男相手に何をと思うのだが、情けない程に身体の反応は正直であった。
「…わかりました。お任せ致します。」
だが菊は他人の気持ちをくむのも上手い。サディクの言葉をあっさりと理解する。
けれど無理は決してしないでくださいね、と釘を刺すのも忘れなかったが。
「そろそろ…2時間ちょうどですね。でも急いで帰りましょう。」
時計を見た菊の声かけで。早足で家を目指したのであった。
「おかえり、菊っ!」
家でおとなしく、菊のいいつけを守っていたヘラクレスは玄関に入っていった菊に思い切り飛びついた。
学校以外で離れていたのは随分久しぶりといっていたから、いつでもべったりだったのだろう事が良く解る。
それを横から眺めながら、前言は一つ撤回しようと思ったサディクである。
甘やかし…過ぎだ。
だから、間に入ろうとするサディクが執拗に恨まれるのだろう。
それは多分に嫉妬からくる推察であったが、今のサディクに気付く気配はない。
「ただいま、ハーク君」
ぎゅうと菊が抱き返すと、うれしそうに笑う子供。
「おれ、菊の言う通りしっかり家を守ってたよ!菊、俺えらい!?」
「ええ、とってもえらいですよ!さ、ご褒美のおやつを買ってきましたから、一緒に食べましょうね。」
や 嬉しそうな顔でにこにこと上機嫌だ。心配のあまりサディクとの買い物も早く切り上げてきたことなど、かけらも見せない。親の見栄という奴だろうか。
「さ、サディクさんも。」
「…あ、へい。」
むつむつと不満に思って変な顔になっていた男は、菊に名を呼ばれ頬を緩めた。名を呼ばれただけであっさりと表情が崩れるので、子供目に見てもサディクが菊を憎からず思っているのはバレバレだった。特に菊に対して敏感この上ないハークであるからこそ余計に。
「ほら、ハーク君。お名前もわかったんですから。改めてちゃんとご挨拶して。」
間に入ろうとする菊には、抜け目はない。
昨日の事もある。
が、ある程度の覚悟もしている今のサディクにとってはそれほど難しい事ではない。それに大人の余裕を見せつけるチャンスでもあったものだから。
手を差し出し、引きつる口をなんとか押さえながら、笑顔を作り言った。
「ただいま、ヘラクレス君。暫くやっかいになる…サディクです。あらためて、よろしくな。」
丁寧にそういうと、ヘラクレスは凄い顔をした。気持ち悪い物を見る目、全開だったかも知れない。
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