「青春!バレンタイン-2」


たった一人に想われていたらそれでいい…のに。

…え、今何思った?俺は?

なんだが凄いことを考えたような気がするが、なんでもない、なんでもないと気のせいだとそれをサスケは咄嗟に振払った。
気付いてはいけないのだと、目を反らすように。
ますます、頬が赤くなっているのをイルカに見られたくなくて…サスケは貰ったそれを大切にポケットにねじ込む。
そうして、消えてしまった会話を続ける為に、紙袋の中から一つチョコレートを取り出しイルカに突き出した。
「俺は何もあげれないから、これ。貰って」
「へ?」
勢い良く目の前に出されたそれに、イルカは酷く戸惑ったようだった。
青い紙と、綺麗なピンク色のリボンで飾られた小さな箱。
焦るイルカを横目にサスケは遠慮なくびりびりと破いた。いつもの自分ならきちんとテープを一つづつはずして…その包装紙も一度は畳んでおいておくのかも知れない。
そうしないと気の済まないところがある。例え、いらないものであっても、後から捨てるものであっても。
けれど、今は一秒でも時間が惜しかった。

「…さ、さすけ?」
引きつった顔のイルカにもう一度、むき出しになったそれを突き付けて、食べてくれといった。
「ちょ、ちょっとまて、これはお前が貰ったもんであって…俺が食べる訳にはいかねえだろ!?」
あたふたと腕をふり、必死にサスケに訴えるイルカはやはりシカマルと同じように考えているのだろう。
女達のサスケに向けられる情を大切にしたいのだと。
しかしそれは違うとサスケは言いたくなる。
その気持ちを大切にしたいと言うなら、この自分の気持ちも…大切にして欲しいのだ。
ただ押し付けられて困っている…自分の気持ちも。

取り出したチョコレートは二つ。これも小さなかわいらしいカップにちょこりとのっている。上に掛っている粉はココアだろうか?
甘い匂いが鼻孔をくすぐった。
イルカにもらったアーモンドチョコよりは大きいが、大したことはない大きさだ。別けて食べればすぐ終わる。
ちゃんと、俺は食べる。例えひとかけらでも。これで、シカマルのいう薄情なことにもならない。

「俺一人じゃ食べきれないから…今日中になんて絶対無理だし…」
先ほどの呆れ返って去っていったシカマルの顏が…又頭を過ったが、本当のことなのだから仕方ない。
こんなにあるのを…一人で喰ったらきっと鼻血どころではすまないだろう。
誰だ本当にこんなことを考えたのは。世間のモテルといわれている男達はどうやって対処しているのだろう。
そう真面目に思っていったのに、イルカはこちんと固まっていた。
?とその顔を見つめ返せば、わなわなと震える唇から思ってもみなかった言葉が飛び出した。

「…サスケ…イチニチで喰わなくてもいいんだぞ?」
「え?」

一日で食べなくて良いのか?食べなきゃケッコン出来ないんじゃないのか?

きっと、混乱しているだろう自分の表情。それをみてイルカはぶふーっと吹き出した。それは盛大に。
「…ぷぷっ、そう思ってたのか?これを?一日で?」
あははははと盛大に笑いはじめたイルカに、サスケは自分の考えが間違っていることを知った。

だって、だって、しぶしぶチョコレートを受け取った直後に…たまたま同じ場にいたエビスとかいう教師が言っていたというのに!

『…なんとも…君はなっていません!そこに直りなさい!!』
くいくいと神経質そうに眼鏡の位置を直しながら、木の影からゆっくりと表れた男。サスケがぽかんとしている間に…バレンタインの習わしと言うものを語り始めた。
いらないと叫んで逃げようとしたサスケの襟首をひっつかみ、いいですから良く聞きなさいと説教宜しく始めたのだ。

この日はとても…神聖な日なのですと。
昔、何処かの国で戦力が落ちるのを恐れた王が、結婚を禁じ。それを可哀想に思った司祭がこっそりと結婚式を上げさせたりしたのだ。だがそのことが王にばれてしまいその司祭は処刑された。その処刑された日が今日のこの日なのだと。

はっきり言って、サスケとてどちらかといえば王の意見に賛成であるから、それは当然のことではないかと思う。司祭のやったことは法を犯すことであり、処刑されても文句は言えないと思うのだが…。
第一処刑された日をなにも記念日にしなくても良いだろう…。そして…チョコレートとはなんの因果も関係もないではないかと思う。
が、テンションアップアップの目の前の眼鏡教師をとめる術もなく、サスケがその長い語りにうんざりとし始めた頃、すごい形相で聞いていますかと一喝され。
ぎょろりと黒い眼鏡の奥から睨み付けられながら…チョコレートは貰ったら一日で喰わなければならないのだと…、それが出来なければ捨てなければならないのだと…多分脅された。
そんなのでは結婚出来ませんぞ、私のように…いやいやいやいや!私は理想が高いのです!妥協しないのです〜!!!などと叫びはじめたから取り合えず逃げたのだが。
…それしきでケッコン出来なくなるわけないだろ、あほらしいと思ったけれど、なんだかんだと根の真面目なサスケは一日で食べなければならないと言う部分は信じてしまった。
けれど今日中っていうのは絶対に無理だから…捨てるくらいなら他のやつにやってもいいだろうと思った訳なのだが。特にそれを破ったからとて何か起こると言う訳でもないのに。
…ちょっとした嫉妬と…からかいだったのだと(非常に情けない話だが)気付いた時にはもう遅い。目の前でイルカはひーひーと腹を抱えて笑っているし、掻いた恥は戻らないのだ。

「…先生わらいすぎ…」
教師がそれでいいのかと、恥ずかしさのあまりに…泣きそうになりながらも辛うじてそう言えば、イルカは腹を押さえながら、目尻を拭いながらすまんすまんと謝った。
「いいんだよ、ゆっくり消費すれば…捨てるなんて勿体無いだろ?」
せっかくの気持ちなんだからさ。
笑いを納めても、涙は拭い切れていないのか目の端に残っている。それがまた気恥ずかしさを煽る。
頬を赤くして俯いてしまったサスケに、さすがに悪いと思ったのか、うーんとイルカは一つ唸ると、一転して眉根を寄せた。
「まったく、大体そんなの誰から教えてもらったんだ?非常識にも程があるぞ…?」
騙された恨みにいってやろうかとも思ったけれど、もし本当にあの男がチョコレートをひとつも貰っていないのならば哀れではなかろうかとも…頭を過ったものだからサスケは辛うじて、その名を口にすることを止めた。こんな子供に哀れまれている当たりがすでに可哀想だ。そう、思おう。
む、と口を惹き結んだままのサスケにイルカは恥ずかしくて言えないのだろうと判断したのかそれならと口を開いた。

「ま、笑っちまったお詫びといっちゃなんだけどさ、お前が余計なものだと思っているチョコレートの効能を教えてやろうな?」

教師の顔になったイルカは、チョコレートの優秀さに付いて語りだした。
そのカロリーは非常に高く遭難時の食料にはもってこいで、携帯にも便利だと言うことや…そうそうに腐ることがない為、保存することも容易であるとか。
そんなことでさえまるで知らなかったサスケは、熱心にその話に耳を傾けた。

こういった雑談に近いモノはいつもなら、問題児の馬鹿共に授業を中断され邪魔されてそうそう聞けるものではない。
イルカのこういった身近な雑談は、実の所…非常に為になる部分であると言うことをサスケは知っている。
それは未だ、親達が健在だった頃の随分前の話ではあったが…たまたま聞く機会に恵まれたことがあったからだ。
その時もごく単純で身近なことであったが、実践にも即したそれは今にとても役立った。
だからイルカの授業で…話が横道に反れそうになった時、毎度入る馬鹿共の茶々に…、腹を立てたり、途中までしか聞けないことをとても残念に思っていた。
こういう小さな部分も…この教師の尊敬出来る部分であり…、気に入っている所でもあった。
そんな熱心に聞くサスケに気を良くしたのか、さらにイルカは踏み込んで喋っていく。
「あとな、媚薬としての効果もあるんだぞ」
元来、チョコレートとは媚薬として、この国に持ち込まれたのだとイルカは言う。
意中の女性に使うものとして、またそういった目的の為に持ち込まれたのが最初だと。昔は非常に高価なものだったらしい。しかも…その効能はけっこうなものらしかったのだと。
まあ、俺達のような…耐性を持つものにはあんまり効かないけどな、甘い香がそういう気分にさせるっていうのもあるんだろうなあ…。
そうとくとくと語るイルカをサスケはじっと見ていた。
普段はあまりこういった…性的なことはあまり語らない男なだけに、なんだか新鮮だった。
いつもは…あえて避けているといった部分もある。
だが、イルカにはそういった初心な所があることは、ナルトのお色気の術で昏倒させられるシーンを何度も見ている身としては良く解っているのだが。

…そういえば、先生は…どうなんだろう。

ふと、サスケは気になったことを喋り続けるイルカに投げかけた。
「…なあ?先生はいくつ…もらったんだ?」
いきなりの問いかけにイルカはぴたりと固まり。なんでそんなことを聞くんだといった目をしながら…ぎぎ、と首を不自然に曲げ、サスケからその表情を見えなくしてから呟くように言った。
「…義理で…ごこ…ぐらい…」
ぽそぽそと哀しそうにいう背にはちょっと哀愁が漂っている。
そんな生徒相手に正直にいうとこでもないだろう。が、それがイルカの面白い所で…よい所でもある。
こんなときにでも…決して嘘はつけないのだ。
それが生徒からの信頼を勝ち得ているのだと…きっと本人は気付いていないだろうが。

「ふうん…」
それでも…サスケは五個も貰ったのだと言う事実が…何となく面白くなくて、適当な相槌を打ってしまう。
そんなサスケにイルカはますます情けない顔になって、どうせ俺はお前程もてねえよと嘆いた。
けれどそんなことはないのだとサスケは知っている。
イルカが義理だと思いこんでいる中には…恐らく本命のものが入っていることだろう。なんだかんだいっても…誰からも気に入られ、愛される、そんな男だと知っている。

自分が茶々を入れたせいで、すっかり折角の講釈は終わってしまった様だ。
少し後悔するけれど手の中のチョコが、すこし柔らかくなってきていることに気付いた。


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