「生存本能-1」


ねえ…
この生存本能にさえ打ち勝つ想いをどうしようか?




何かなんでこんな話題になったんだか。

ほんと良くわかんないんだけど。
こんなあっぴろげな大衆居酒屋でやるような話じゃないデショ?とは思うんだけどね。
いつのまにかそんな話になってたのよね。
さっきまではどこかの女を落とすやおとさないや…そんなありきたりの、ま、ほのぼのした恋愛話だったんだと思うんだけど。

普通はそういう話だよね。
こういうとこでやるのってさ。
下らない日常をだらだら語って楽しむのが。
ま、こんな稼業やってちゃしかたないとこもあるしさ。むしろ血なまぐさいのが日常なんだしね。
俺は特に会話にも加わらずにうんうんと頷くだけの聞き手に廻っていて、ひたすらに酒のあてを喰ってたんだけど。
また…この秋刀魚が絶品だってのよね。
旬のものってどうしてこうおいしいのかね。
うまさを…大事なもの全部ぎゅっとつめこんだみたいな。
もう言葉では言い表せないくらいにさ、おいしんだよねえ…。
好きなものならなおさらだよねえ。
こういうの食べてると本当に幸せだよね、人間。

でもつきあいってやつは大切だ。
俺は特に仲間思いでとおってるしねえ。
まあ事実、仲間を見捨てる奴は人間の屑だと思ってるし。
ま、これは一方的に思ってるだけかも知れない…友人から教えられたもんだけどもさ。
けどそれを破るやつはそれこそ最低野郎でしょ?
結構に欠陥人間だって自分で自負してるとこもあるから。これは本当に俺の最後の砦なんだけどね。
程々に相槌をうってやるのも、酷く億劫な気はしたけども。

…だって話題が話題だもの。

死地における男の生存本能…なんてさ。
こんなとことでは話すようなことじゃないでしょと思うけれど。
まあ…考え出せば切りがないことで。
それは酷く醜く本能に忠実なことだから。
そして至極、当然の事。

感情やそういった欲望は、今では随分とコントロール出来るようになったけれど、あの命の駆け引きの中、唐突に突き上げる欲望は若い頃には手を焼いたもんだ。

…?
…ああ、思い出した。
なんでこんな話題になったのか。
今日朝早い時間に里に飛び込んだなんともいえない情報のせいだ。
簡単な概要はこうだった。
まだ未熟な下忍が、死を纏う激戦を経験した後、その命がけの死線をくぐり抜けた興奮と緊張のまま、一般の者である…里娘を強姦したらしいと。
よくありがちな話だと片付けることは出来ない。
忍びの力は畏怖され、時に恐怖の対象となるのだ。
だからこそ、戒律は重いものでなくてはならない。
しかも…あり得ないことに…そんな罪を犯したのは、この木の葉の忍びだった。
恐らく経験の浅い未熟な下忍には…生に迫りくる死の恐怖に耐えられなかったのだろう。
どう言う経緯でそうなったかは、良くは知らないけれど。
恐かったろう、何時訪れるかもしれない死は…経験もない下忍ならまずあたりまえだよね。

かわいそうに。
けど一般の犯された娘はもっとかわいそう。
そう…ここを履き違えてはいけない。
自らこの道を選んだ者は決して…間違えてはいけないのだから。

だからこそ…それはそれは朝はやくから随分な大騒ぎになったんだよね。
そんな事件を起こした張本人は…恥知らずめ、里の恥部だと…すぐに暗部に拘束され、縛され…今は沙汰を待っている身らしい。
自分の犯してしまった罪の大きさに…随分と憔悴していたみたいだと目の前で話されていた。
大抵下忍に与えられる任務は血なまぐさいものはない。
簡単な、お手伝いみたいなものから始って順々に血に慣れていくのが通例。

ま、当然のことだよね。
そうしてゆっくりと人殺しの狂気になれていく。
それも薄きみの悪い話だけどね。はは、数えきれないくらい命を奪ってる俺がいっちゃおしまいかな?
まあ、戦争中はそうもいってられなかったけど。
とかいっても…俺はそんな暇もそうそうなかったしさ。先生によくこき使われたもんね、へとへとになるまでさあ…。
そういう衝動が来た時はそれこといろんなとこに引っ張り廻されたり、プロのおねーさんのとこに連れていかれたり。
…抜き方とかも教えてもらったっけ…うわー嫌な思い出…はずかしいったらないねえ…。
ま、ストッパーがいたのは…本当にありがたかったけどさ。

そうそう…圧倒的に人手不足な今も…そんな生温いことはいってられないわけで…。
本当は…それほどに難しい、血をみるような任務でもなかったのかもしれないけどね。
けれど最近は高ランクの任務にも関わらず…金を払えずに、低ランクの金しか払わない者も増えてきている。
まあ本当に金がないだけで…悪意はないのかもしれないけど、課されるこっちはたまったもんではないのよね。
箱をあけたらまあ、びっくり…ってのはちょっと所でなく遠慮したいものがある。
やはりこっちだって死にたくはないから万全の準備はしていたいものね。
っても何だかんだ言っても…警戒はおこったったことないからそういうこともある程度想定はしてるけど。

近頃では…俺だって、小さな初めての部下達を引き連れた、Cランクのはずの任務でえらい目にあった。
まだ経験の浅い子供達に…死に限りなく近い任務をいきなりに味あわせちゃって。
俺にしてははめずらしくも…殊勝にも…申し訳なく感じたもんだ。
ま、人殺しの後味の悪さとかは…経験させずにすんでよかったけどね。
だって初めての部下だもん。大切に育ててあげたいもんね。
とーぜん…愛があるから。
ま、そのぶんある意味スパルタでもあったかもしれないけど…。
そうしないと死んじゃうもん〜あの状況じゃさあ。俺が守るのにも限界があるし…その分やる気も、資質もある子供達でよかったというか。
…あっというまに俺の手を離れてっちゃったけどさ。うわあ過去形。
寂しいとか思わない、また帰ってくるし…なんて虚勢をはっても…まあやっぱりさみしいもんはさみしいね。
1人はこの里から完全に出てっちゃったし。
力が…ホント全然足りなかったんだなあ。とか感傷的になっちゃったりしてね。…俺は意外と子煩悩になりそうだなあとか。
ま、任務、任務でそうばっかりもいってられなかったしねえ。
けど俺だって子供達に負けてはいられないから…いろいろやってみたりはしてますよ?

ああ、ちょっと脱線しちゃった。

そうそう、話題だよ。
俺がぼんやりしてた間も白熱してる会話は進んでたらしい。
今さらだけどさっきの答えみたいなもんを…会話の間に挟んでみることにしよう。

「そうだよねえ、切羽詰まった少年兵が老婆を集団でレイプしたなんてお話もあるくらいだしねえ…」

のんびりといったら、凄い顔で回りから凝視された。
あれれ?外したかな?
でも間違ってないよね、話題はさ。うん。
これは伝え聞いただけの話なんだけども。ホントの事でしかないのは俺自身が良く解っているから。

それくらいに…死の縁は人間の本能を呼び覚ます。
しかも一方的に追い詰められた時のそれは…尋常じゃない。
どこか一本ネジが飛んでいってしまっているんだ。
普段の理性等…強靱な精神力を持っていようと、なかなか逆らえるもんでもない。
何時死ぬか解らないような状況では…理性はまさに…どこか遠くに飛んでゆき。
いやそんなものあったかなとかおもうくらいだ。

子孫を残すことが全てとなる。
それしか考えられない。
女の中に出すことしか考えられなくなるんだ。
いくら生物の頂点にたとうとも、人間だって所詮は猿なのだと思い知るね。

…いやも、当然俺にだって覚えはありますよ?
だってこの中で一番、死地に赴いてるのって多分…俺だもんねえ。
最近は、慣れもあるし精神的なコントロールも出来るようになってきてるから、性欲くらいある程度押さえられるようになってきてるけど。
どうしようもない時も…ある…っちゃーあるけどねえ…。

やっぱり死ぬのは恐いもんね。これだけは多分永遠に消えない。
奪ったぶんだけ…恐怖も増してる…麻痺は絶対にしない。
…これが俺が人でいられる理由なのかね。
逆に…性欲があるだけ、まだひとなんだと…確認出来る時もあるね。
まあ…だから…今だってたまに、プロのおねーさんにお世話になるし。
精神バランスを崩さない為にも、長期の戦場では伽に用意されていた女を抱いたりもしたよ。
これは上忍として、上官として当たり前の事でしょ。

戦場でおかしくはなれないもん。仲間の命しょってンだしさ。
そこらも俺を支えてるもんだったんだろうね。今もいえるけど。
まあ戦場でありがちに…興奮のまま…酷くしたりとかは絶対になかったけどね。そこらへんも上忍のたしなみ。だから指名されること多かったのかね、今さらながら。


……

………あれれ?

ちょっと聞いてない間にさあ…また変な方に話題いってない?

どうしてそうなんのかなあ?
ちょっとおまえら…おかしいって。
…あのさーもしかしてそう言う趣味でもあんの?
もしかして戦場で抱いたときの味が忘れられないとか…?

しんじられなーい!
いやーんふけつ!
って、おいおい…しかもまた俺に話題ふんの?
さっきの返答でこりないあたりが、さすが上忍っていうか…図太いよね?
でも、まーちょっと興味もあるし……ふふっ……答えますけどね。

「そりゃーさあ…当然女でショ?どんな綺麗な男がいたって…俺は女を抱くよ」

だって本能がそういってんだからさ当然でショ?
女のなかに出さないと子供できないんだからさあ…男に注いだってなにも出来ないのよ?
なのにえええええとか大声で叫んで否定しないでよね?
聞いたのそっちでしょうが〜?
男のほうがいいだなんて信じられないねえ。
だからこの際…見目は関係ないんだってば。
生存本能は生存本能なの。
動物としての異性への執着しかないのよ。

「第一女しか抱いたことないし、なんで好んでオトコに手を出さなきゃいけないのよ?」

…あははは、良い気味ー!絶句といった表情が並ぶのには。
ちょっとお灸をすえる為だったんだけど、効果的面。
ま、小さな頃から戦場を走り回ってた俺だから…里の至宝である目を持っているから…いえることかもしれないんだけどね。ちょっとした…御褒美っていうか。
本当はもっと別のもの…が今は欲しかったりするんだけど。
髭は…かわらず澄まし顔で煙草を蒸かしてるだけだった。まあこいつには気のつっよーい…でも凄くいい女がいるから当然かもしんないけど…。なんだか憎たらしい。
だから俺も、ちょっと腹いせにこの髭の表情を動かしてやろうと思ったりした訳。

「でも…俺の思い人がそこにいたら話は別ね?」


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