「自惚れ恋愛方程式-1」


 
 はっきりいって禁断の恋だと思った。

 年令が年令だし…犯罪に引っ掛かってしまうくらいの離れ具合。
 そして、性別も同じだったりするし。
 まあこれに関しては忍びにとっては大した問題じゃない。といっても世間の風当たりは結構に強いものだけれど。
 けれど重要なことは『子供を為せないこと』なものだから。
 自分も相手も実は優秀な血筋だったりするから、大反対とかされるかもしれないけれど。

 そんなことはどうでもいい。
 けれどやっぱり、人非人とか言われようとも、それなりにモラルだってあるつもりだから、自分を一度は戒めようともしてみたけれど…。
 無理だった。
 どんなに振払っても消えないこの思いは本物らしくて。

 この思いはきっと…間違いじゃない。
 そう思えたから。

 あのお日さまのような…子供が自分は好きなのだ。
 どんな状況でも諦めることなく前を向いているこの子供が。
 今でも誰よりも尊敬している…大好きな先生の忘れ形見が。

 間違いとか…そんなものはもう…全て二の次だと思えたから…。

 そう、結構本気で惚れていると思ったから、この道を突き進むことにしたのだ。
 どこまでいったって、後悔なんて絶対にしないと思ったから。
 きっとこの気持ちが無くなる事等ないのだと。

 …強く思ったはずなのに…?




「ちょーっとまったああああ!!」

 凄い、金切り声が周囲に響き渡る。
 通りすがりの通行人が飛び上がって、目をひんむいてこっちを凝視してくるぐらいの兎に角、凄いやつである。
 うん、おれも…はっきり言ってびっくりした。
 しかし如何せん、もうこれは何回目?と尋ねたくなるくらいで…回数も二桁以上になっていたものだから。まあ、驚きながらもカカシとしては、いい加減慣れてきていたのだけれども。
 …また…、またきたってばよ…
 最愛の子供の口まねで、カカシはうんざりと顔を顰めた。

 目の前にいるのはどうみたって…バレバレ過ぎる変化の女だ。

 やっぱり…もんの凄い大声で、くっついちゃいけませーんとか叫んでるものだから、近所迷惑にも程がある。
 うおーい、いい加減にしてくださいよー周りの視線とか気にならないんですかーとか思ったって、目の前の男の変化が解ける訳でもないし。
 それにとなりにいたの最愛の教え子が、服をついついと引っ張ってくるから堂々とつっこむわけにもいかない。
 そう、この子供と急接近する度に表れるのだから…もう、どうしようもないのだけれど。
「…カカシ先生…黙ってやっていてくれってばよ…」
 自分の真横につつつとやってきて、くいくいとカカシの袖を引っ張って、ぽそぽそと漏らしたナルトの言葉はそんな…恩師を慮るものだ。
 これってどうなの?ねえ?元担任ってか、教師ってか、中忍ってか。
 大の大人が、しかもあの中忍試験に受かったものが…(しかも優秀な者しかなることの出来ない先生になれた人が)落ち零れといわれた生徒相手にこれって…本当にどうなのよ、コレ。
「…あれでも…せんせばれてねーって思ってんだ…ここはひとつ…騙されてやるのが男ってもんだってば…」
「………りょーかい…」
 そんなことはどうでもいいんだよとばかりに、カカシは薄ら寒く笑う。
…そうか、それがおまえの優しさなんだな、せんせいとても…感動したよ、けどこんな大人の男に対して、男の優しさが発動されるのもどうかと…先生は思ってしまう訳で。
そんなことより、その優しさを俺にまわすことって…出来ないの?
 そう嘆きの眼で見つめてみても、目の前の子供が同情と憐憫のこもったような眼で見つめているのは、大声で叫んでいる女で。
まあ、そんなこんなのお陰で、今だ…一向に。ナルトが自分の気持ちに気付く気配はない。
 ようは子供への想いを自覚してから…進展がこれっぽっちも無いのである。
 …かんべんしてよ、もお…。
 七班の面子もいない…二人きりの絶好のチャンス…いや、いや。まだそんな危なげなことを思う程、危険な位置にも迫っていないのでこの意見は却下だ。
それは脇に置いておいても、兎に角にも…邪魔しているのはどうしたって目の前のイルカ…いや、イル子とやらなのだ。
  もうすでに皆様お分かりであろうが、この大声で叫んで説教をかます女子…イル子さんは当然ながらアカデミー教師のうみのイルカ先生である。
多分一般人にも解ると思われる程の変化でしかないので、あんまり見破ったからとて誇れるモノでもない。
ばれないようにと、御丁寧に性別を変えて変化しているつもりらしいので、ナルトが庇ったりしている訳だったりする。いや既にバレバレであるのだが…。
 本人はいっこもばれてないとか思っている辺りが、滑稽を通り過ぎて哀れな勘ひしひしなのだけれども。
道化としても失格じゃない…。
 ため息をつきながら…カカシは改めてまじまじと目の前のイル子さんを観察してみる。

 ひとつくくりであった髪はきちんと下ろされている。
 これは意外と?良い感じだったりする。たったそれだけでもこうも印象が変わるものだろうか、と思えるくらいで悪くない。ぱっと見の印象を変えることは変装の基本でもあるから、これはまあいい。
 もちろんトレードマークでもある顔の傷は、ない。
 まあつけていたらばればれも甚だしく、さすがに中忍として、いい大人としてどうかと思うし、当たり前の事なのでこれも置いておく。
 …顔はベースの、イルカ先生のまんま。どう見ても。
 …誰だって気付く。
 アカデミーに入りたての生徒の子供だって当然ながら。
 どっちか卵か知らないけれど、お色気の術だってナルトの顔がベースなのだから…こんなところで師弟を彷佛とさせる二人であるが。
 身体はそれなりに美味しそう。これも以下同文。
 だが、まさにお色気の術そのもの…。
 こんなところ迄、観察出来ている辺り、まだまだ余裕なのかも知れないが。
 まあ、…別にいいんだけどさあ…。
 きゅっとくびれのある豊満な身体はいつもの、凡庸な男を思い起こさせもしないけれど。
 そう、顔はまんまなものだから、はっきりいって美人でもなんでもない。はっきりいって十人並み。笑顔は確かに受付でいつもぶつかるあれで、愛嬌があってかわいいともいえなくはない。が、今のような状況では大概怒っているから意味も無い。
 第一、どんなに可愛くても、イルカ先生なのだ。
 まあ多少は…可愛いとも思う。
 総合すれば、それほど悪くはないとも思う。

 …でもこれじゃあねえ…。
 けれど…行動の全てがもう、まんまなのだ。まんま熱血一直線のイルカ先生そのものなのである。
 半分は…ナルトの受け売りではあるが。(幾度か呑みにいったりしたことはあっても、その時のイルカは上忍相手だったからか、がちがちであんまりそういった所を見た訳ではなかったので)

 …いやいやイルカ先生に関する問題はそこなのではない。
 ことあるごとにハレンチですと叫ぶ…その割り込みっぷりだ。
 たまに本気のパンチが腰の勢いに乗せられて、飛んでくる事もある…。もちろん向かう先はカカシの方ばかりである。あたったことは一度として無いが、あたったら多分めちゃくちゃいたい。
 女の平手でも忍びのやつは侮れないからだ。
 多分三日くらいは紅葉型がとれないに違い無い。
 こんなところまで…ストレートで解りやすすぎる。

 ああ、もう。口を滑らすのではなかった。
 ちょっと呑みに言った時の発言が悪かったのだと思っても…今さら後の祭だ。
 だが、ちょこっと酔いの勢いで、俺、ナルトが可愛くてたまんないんですよね…とかの、一見軽い教え子への愛情を零しただけで…それを本気に取る馬鹿が何処に入る。
 いや目の前にいるのだが…。
 だがそれは本音に間違いなかっただけに、天然の勘恐るべしとも言えるけれど。
 いや、そのまんま変態要素の強い男だと見られているだけなのかもしれないが…。それもどうかと思うけれど…数回呑みにいっただけの仲ではそれほどの信用は貰えないらしい。
 上には折り目正しい人だとおもってたけど…。
 まあそれ以来、カカシがナルトに近付こうとすれば…ひたすらにこうして割り込んでくるのだ。
 皮肉だってまるで効きやしない…天然には。
 割り込み5回目にして、カカシはイル子に聞いてみた事が有る。
 少し、フェイントをいれて…あんた、暇人ですね?アカデミーの自分の仕事はどうしているんですと、いやみたらたらに聞いてみたのだ。
が。
 ああ、それは影分身をおいてきているんです。今までそんな長時間使った事なかったんですけど…結構チャクラ消費しますね。これで子供の相手は大変ですよ…とけろりとした顔で答えられた。
 うおーい…自分から正体をばらしてるよーこのひとー。と、脱力させられたのは記憶に新しい。
「ちょっと聞いてるんですか!カカシ先生!!」
 きーっと頭から湯気が出そうな程になっている、イル子が叫んでいるのがようやく耳に入った。
 ああ、いつも通り聞き流してた。
「はいはい、わかりました。わかってますってば」
 そしていつも通りに適当な相槌を打つ。それにさらに激高する事が解っていながらも、そうする以外に良い方法が思い浮かばないのだ。
 だが今日は少しながら勝手が違っていた。ナルトが突然ずずいとカカシの前に出ばってきたのだ。
「イルカせん…いやイル子のねーちゃん、もういいってば、俺が心配なのは良く分ったってば!カカシ先生には良く言って聞かせるから、そんな怒らないでもいいって!」
 …ナルト…
 恩師と現先生の間で板挟みになっている子供はなんとか…それでも間に入って少しでも何とかしようと考えていたらしい。そのいじらしさに涙がでる。なにか言葉にすこしひっかかりや刺を感じたものの…やっぱりお前は良い子だなあと…。
「…ナルトくん…」
 当然、ナルト馬鹿のイル子も、かなりキュンとしたらしい。いじらしい…なんて可愛いやつと。眼を潤ませているから良く解る。だが、こんなところで以心伝心していてもカカシとしては、おもしろくもなんともない。ナルトと出来るなら兎も角、なんでこんな天然おばかの変な人と。



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