「きみさあ…」
「おれはいらねーぞ。そんな泥水」
調子は戻って来ているのかいないのか。だが何度繰り替えしたか解らないこんなじゃれあいだけでは判断もつけ難い。
「心配しなくても僕の分しかいれてきてないよ。この奥行きの深い味わかんないでしょ、君じゃさあ。日本ならともかく…」
だからこそ敢えてNGワードを口にする。
「…うっせーよっ!このエアヘッド!その泥水と一緒にとっと出てけよ!」
瞬時に飛んだ罵声に、アメリカは眉根を寄せる。これには多少かちんときた。
こっちはいつもは絶対に使わない気迄使ってやったのに、お返しはこれか、と。
「はーっ…君、なんでそんなに素直じゃないんだい?そんなんじゃ、日本にも嫌われるよ、当然さ。逢う度にそんな尖った態度じゃさあ。日本にだって『カンニンブクロのオ』ってやつはあるんだよ?君、何か勘違いしてないかい?いや、自惚れてるのかい?いくらやさしい日本だって…」
苛つきと共にぶつけた言葉は途中で中断された。
一気に増したイギリスの頭上にある真っ黒な雲は、ごろごろと雷を落とす暇もなく…また、泣き出したからだ。
「…きらわれる…か」
自己完結するなら未だしも、他人に言われる言葉はかなりきついものがある。正鵠を得ていれば余計にだ。
席を外してくれたアメリカに多少也とも感謝はしていた。しかも只コーヒーを煎れるよりか時間が掛っていた訳も知っている。不味かろうがなんだろうがはこの際二の次だ。決して自分の前に、いれたものを決して出したりはしなくても。
落ち込んでいるイギリスの為に紅茶を、ぶつくさ言いながらでも用意していたのだろう事も知っていたのに。
だが、感謝を伝えようと思っていても、出て来た言葉と言えばいつもの憎まれ口。
しかも不意打ちのように出た日本の名に、過剰に反応してアメリカを詰った。
誰だって怒って当然のことを俺はしているのだ。
アメリカじゃなくたって、普通怒る。
だからこそ、アメリカの言葉は容赦なくイギリスの心を抉っていた。
なのに、感情はコントロール等まるで出来ない。好意を持つ相手を前に、理性等いつのまにか吹っ飛んでしまっている。
「そんなこと、解ってるんだ。わかってんだよ…」
ぐと手を握りしめた。引っ張られた皮膚が青く引きつる。
「わかってても…おれには…」
何も出来そうもない。
踏み出せない自分が一番情けないことも。
全部、解っているのに。
すっかり覇気をなくしてしまったイギリスのお陰でどんよりを通り越し、しんみりとしてしまった空気に、アメリカはぼそりと辛気くさいと呟いた。
イギリスがこのままでは非常に調子が狂う。イギリスと喧嘩が出来ないなんて、日課が消えたようなものだ。チェリーの入っていないチェリーパイのようなものだろうか。
それはつまらない。おいしくない。たのしくもない。
玉砕でもなんでもして、いつもの調子に戻ってもらう他ないだろう。
しょうがないなあ…?
大仰なため息ともに、オーバーリアクションで、アメリカが言う。
「あーもーっ辛気くさいのはやめやめ!仕方ないから、今回だけ特別に!日本と仲良くする方法を教えてあげるよ!もうさ、出血大サービスどころじゃないからね」
「…え?」
ゆっくりと緩慢な動きで顔を上げたイギリスはきょとりと目を見張る。突然何をいっているんだこいつはというあからさまな顔にもアメリカが構う事はない。
「だかーらー!このアメリカ様が直々に良い方法を教えてあげるっていってんだって!」
まったく信用のならない言葉であったが今のイギリスは藁にも縋りたいような、そんな状態であったから。
「…ほ、ほんとか…!?アメリカ!?」
イギリスは縋り付くようにして、アメリカの裾を掴んだ。
「ふふふ…まったく、この借りはでかいよ!」
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