「愛の病も酒次第-5」

 それどころか、あっさりと目下の悩みの本質を見抜かれてしまっていた。
「…ははーん。君。また日本に『ツンデレ』ってやつ、しちゃったんだろ!?」
「ぐうっ」
 なんでそんなことが解るんだと叫ぶ事も出来ないまま、喉を一気に絞められたような気分になる。
 図星をさされ絶句したイギリスにふふんと鼻をならして、さらにアメリカは得意満面な顔で追い討ちを掛けた。
「いい加減にしとかないとさあ…君、日本に嫌われちゃうんじゃない?」

 ぶっさり。
 その言葉はまさに刺さった。ぶっ刺さったという形容が一番近い。
 言葉の暴力の衝撃のまま、しおしおとソファーに沈み込むイギリス。
 しんとした静寂が二人を包む。
 あれ?
 いつものような否定の煩いわめき声が聞こえない。あれを軽やかに流すのが非常におもしろいというのに…反応のないイギリスにアメリカが怪訝な顔で覗き込む。
「どうしたんだい?イギリス…まさかっ本当に頭のネジが一本飛んじゃったのかい!?」
 ただ、ひたすらに屈み込むようにして、ふるふると震えるイギリス。
 さすがのアメリカもいつにない反応に驚いたのか、吃驚顔でゆっくりとイギリスの様子を見ようとその正面に立った。それと同時にぼそぼそとした声。
「そ、…」
「そ?」
 空耳かと聞き返した瞬間に、ぶわりとめいっぱいイギリスが前屈していた身体を勢い良く上げ、アメリカの前髪すれすれを通っていく。
 そして、反った。
 反り返った。ぶおん、と音が鳴り、叫び声が響き渡る。
「そんなことわかってんだよおおおおおお!!」
 極限まで反り返ったイギリスがバネの要領で、ぼよよんと帰ってくるそれをアメリカは避け切れなかった。
 物凄い勢いでがつんとお互いの額をしこたまぶつけ、いってええと叫びながら二人して蹲った。
 せめてもの喜びは、ハプニングにありがちな『きゃっ!接吻しちゃった!』等ということが起らなかった事くらいだろうか。
「…ういちちちち、今日はずいぶんだなあ…、君そんなにやばいこと日本にしちゃったの…?」
 あきらかにたんこぶの出来ているおでこを涙目で摩りながらも、やはり追撃は忘れなかったアメリカである。いや、無神経に見せ掛けた攻撃とも言う。
「う、うるせーっわかってんだよ、そんなこと…わかってんだよ…」
 心無しか涙目だ。あまりに情けなくて、可哀想になったのかアメリカは口をヘの字にまげて聞いた。
「君…まさか、泣いてるの…?」
「うっせー泣くか!お前の石頭がまじでいてえだけだっての!このばあかっ!」
 だが、顔を覆いつつも、手の間から見える涙はまだ乾いておらず光っていた。
 これはどうも重傷のようである。重体に近いかもしれない。
「ふうん…まだ嫌われてはないようだけど…なんだか時間の問題みたいだね」
 ふうとため息を付いたアメリカはくるりと踵を返し、キッチンの備わった部屋へ歩いていく。
 デリカシーなど欠片もなくても、アメリカだって兄の気持ち位は長い付き合いの為に良く解ってしまう。涙する姿等自分に一番見られたくないだろう事も。だから、コーヒーを入れに行く振りをして、一人にしてやることにしたのだ。
 少しの時間ではあるが…さすがに泣き止みはするだろう、と。
 だが、一つだけカップをもって踏み入れた先ほどの部屋には、暗雲を背負ったままの鬱陶しい男がいるままだった。泣き止みはしていたが、先ほどよりも遥かに酷い雰囲気にアメリカは辟易した。


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