知らずと、日本は手を伸ばしていた。
少しだけ。ちょっとだけならきっと大丈夫。
そう、柔らかく、そっと触らなきゃ。
イタリアのアレを触った時の事を思い出しながら。
だが、触れようとした瞬間、フランスが大きな声を上げた。驚いたような、焦ったような…そんな表情が読み取れる声で。
「ちょ、おい!にほん…!」
ぎゅむ。
もうちょっとやさしく触ってあげて下さい。
そう言ったのは自分だったと思う。やつはしで…(以下同文)
だって大事なところ…なんだし?
けれど、今はその正反対。驚いて、つい。慢心の力を込めて握っていた。
ギリシャのそれを。
さあーっと日本の血の気が引いた。後ろでは同じく血の気が引いたフランスが絶句している。
ギリシャの反応は…まだない。 …言い訳は沢山ある。
フランスがいきなり大きな声を出したのが悪いのだとか、びっくりしたとはいえ、咄嗟の対処が出来ない自分が情けないだとか、まあ、いろいろだ。
真っ白になった頭に言い訳が思い浮かんだ瞬間、また焦ったようにフランスが口を開いた。
「…あ、わ、わるい、俺が驚かしたから、日本がびっくりして触っちまったんだ…よな?…な?」
「…あ、ああ、は、はい…すみません…ちょっと驚いてしまって…ごめんなさ…」
疑問系のその助け舟に、日本は飛びついた。
そうだ、ちからづよく触ってしまったのは、私のせいではないもの。
…多分。
フランスさんの声のせいだもの。触ろうとしたのは無意識だったけれど…。
更にフランスは強い声で日本を庇うようにしてくれる。
有り難い。ここにいるのが空気の読めない代表のアメリカとかイタリアでなくて本当に良かった。
「だよな!だよなあ…!まじでごめーん!ギリシャ悪かったよ。な、許してくれよ」
「本当にすみません、フランスさんもお人が悪いんですから…」 苦笑いで二人で、あやまる。フランスのありがたい気配りに目で答えながら。
だが、これならばなんとかごまかせそうだと、安堵の息をつきかけたその瞬間。
「…うるさい…」
ぼそりと溢れた言葉に二人は凍り付いた。
酷い怒気。
今までにない、強いものだった。
そもそもほよほよとしている彼が、ここまで不機嫌を露にするのはトルコ相手にのみだったのだ。
笑い話にできる雰囲気は一瞬にして消え去ってしまった。
「…え…」
振り返ったギリシャの顔はいつもと変わらないはずなのに、そのいつもと違うそれに日本は圧倒された。
「あ…」
それでも頭の中で言い訳が走り回る。けれど、なかなか口から出てこない。
あやまらなければと思うけれど、口が凍ったように動かない。しびれたようになっている。
どうしよう。
そんなに怒らせてしまったのだろうか。あれはイタリア君のモノと違って逆鱗のようなものだったというのだろうか。
先ほどまで主人に擦りよっていた黒猫もその怒りを感じ取ったのだろうか、いつの間にか、何処かに消えてしまった。日本の為に、猫を呼んでくれたのだというのに、その好意をぶち壊してしまったのは自分だ。
味方だと思い、安心し切って日本の目の前に弱点とも言える場所を曝け出したのに、それを裏切るようなことをしてしまったのが、いけなかったのか。
「…日本でも…やっていいことと悪い事がある…」
ぼそりと無表情でいいきられたそれに、日本は恐慌をきたしそうになる。
「あ…」
やっぱりことばがでない。
動かない頭なりに…ひとつの結論が導きだされて。でもそんなことは信じたくなかったから言い訳さえ出てこない訳で。
嫌われたのか、私は。
特別に好かれているのだと、解っていたから。
他國と一緒の時にはまるで見せないような顔を、日本と二人きりの時には沢山見せてくれた。まるで甘えているように。
だから、私は勘違いしていたのだろうか?傲慢になっていただろうか。
この瞬間に今まであった、口には出せなかった日本への不満が溢れただけかも知れない。けれど、それを決定的にしてしまったのは自分の所為だ。
どうしよう。
それだけしか頭が考えてくれない。
もう、泣きそうだ。
どうしよう。
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