「…!?」
何だ、と思う暇もなく、いきなり体がふわりと浮き上がった。
どうする事も出来ず、ただ俯いてばかりだったから状況が飲み込めない。
いとも簡単に、なんの引っかかりの一つもなく。ギリシャに横抱きにされていたのだ。
「ちょ、ギリシャおまえ何してっ!」
走りよってくるフランスを振り切って、日本を抱え上げたギリシャはあっという間に別の部屋に大股で入って行く。
いきなりの事に、日本はまるで反応出来なかった。頭が混乱している所為もあるのかもしれないが。
入った途端、ばたりと扉を締め、鍵さえも閉めてしまう音が聞こえた。
「おい、ギリシャ!」
がちゃがちゃとフランスがノブをまわしたり戸を叩いている。
荷物のように投げ下ろされて、日本は数回跳ねた。
乱暴なそれに、小さくなりながらも、ここはベットの上なのだとふわふわとした感覚に気付くには時間は掛らなかった。
どんと大きくドアを叩く音がして、フランスが大きく叫んだ。
「おい、いい加減にしろ、日本だってわざとじゃ…」
「…知ってる、そんなこと。日本はわざと俺の嫌がる事なんかしない。でも、こればっかりは許せない」
その言葉にびくりと体が震えた。
…もう、許して貰えないのだろうか、と。
「お、おいっ落ち着けよ!」
「…おまえの言う事はわかる。でもこれはオレたち二国の問題だ。フランスには関係ない」
「な、関係ないだと!?俺の目の前で起こったことだぞ!?あるだろ!」
「うるさいな、もう。…知ってるだろ?俺は日本に手荒な事は絶対にしない。だから、フランスは帰れ」
「…ホントだな」
「…オリンポスの神々に誓って」
真剣なその声には偽り等何一つ無いように思えたけれど、それでも日本としては、フランスがいなくなってしまっては非常に困るのだ。こういう時に味方がいるのといないのでは、心強さという点で大違いなのだから。
頼むからいてくれという願いも空しく、フランスはあっさりと承諾した。
「…わかった。また日本を明日の朝、迎えにくる。それまでに話つけろ、いいな!」
「え、ちょ、フランスさんっ」
最後の望みの男はあっさりと返ってしまうのか、日本をこんなところに置いて。
だが、その声にますますギリシャの怒気が強まったような気がして、日本は口を噤むしかなくなってしまう。
「…わりーな日本、そいつがそうなった責任…自業自得っちゃ自得だから…受けてやって?」
「…とっとと帰って」
その言葉を最後に二人で日本には聞こえない程の声でぼそぼそと話した後。本当にフランスは帰ってしまった。フランスの気配はその場から、すっかり消えてしまったのだから。
…うそ…。
自分で招いた事態だとは言え、あんなに庇ってくれていたフランスがあっさりと帰ってしまった事に、日本は驚きを隠せなかった。
すっかり静かになった戸の外側。
唖然と間抜けな顔でそちらばかり見ていたに違いなく。
だが、いつまでもそれに呆然としている訳にもいかなかった。
ギリシャの不満げな顔と怒気らしきものは収まるどころか強くなっている一方な気がするからだ。
最後の助けはいってしまった。
男であれば、武士の魂をもつものであれば…腹を括るしかない。
酷い事はしないといったけれど、ギリシャの纏う怒気はおさまっていないからそれに近い事は覚悟しなければならない。
殴られるのだろうか。
ギリシャと日本の体格差ではあまり抵抗は出来まい。
なにより、今の日本はギリシャの雰囲気に気押されてしまっているし、友人を深く傷つけたのではないかという罪悪感が支配していた為、抵抗する気など丸でなかったのだが。
「ご、ごめんなさい、ギリシャさん…」
意を決して日本は切り出した。
誠意をもって、謝る。
そうすれば、きっと伝わる。
だって、もっと仲良くしたかったのだ。これからだってずっと。
「悪気は…本当にありませんでした…けれど、調子に乗ってしまったのも本当です…ごめんなさい…」
「…」
沈黙が重くて怖い。
でも殴られても、それで許されるのならそれでいい。
覚悟を決めた時、ぼそりとギリシャの口から肯定の言葉がこぼれる。
「…責任、とって」
ああ、責任を取れというのならとります。
貴方との関係を修復することが出来るのでしたら、許してくれるのならば、幾らでも。
衝撃を覚悟して目を瞑る。
幾らでも殴りなさい。それで貴方の気が済むのなら。
さあ、こいとばかりに日本は顔を差し出した。
が。
ふにりとした感覚。
しかも唇に。
「…え?」
本日2度目の衝撃。
ばちりと開けた目の前には端正な顔。
苦しそうで、あつく潤んだ目。
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