春が早くくれば良いのに。
と私がいうと、貴方がくっつきにくくなるからいやでぃなんていって、頬をすり寄せてくれるのです。
大きな手で抱き寄せて、懐に入れてくれる。
私はすっぽりと貴方の腕の中に治まってしまって、まるで子供のようだとも思うけれど、心地よくてすぐに眠たくなってしまうくらいだから、きっと間違っていないのでしょう。
だってとても、とても好きなのだもの。
本当は私だって、貴方がこうしてくれる冬が大好きなのです。
いくらくっついたって暖かいばかり。
冷たい手だってすぐに暖かくなるのです。
心なんて真っ先にほかほかになってしまうのです。
貴方の優しさまで伝わってきてほわほわ、幸せになるのですもの。
けれど私は呟く。
春が早くくれば良いのに。
もう一度呟いた私の首元に貴方は額を埋めて、だーかーらーなんて繰り返した。
すりすりすりすり。
少しくすぐったい。
もぞもぞ、おひげも少し痛くて、くすぐったい。気持ちいい。
おれぁ、もっともっっとあんたとくっついていたいの。ずっと冬希望でもいいくらいでぃ。
…うーん、さすがにそれはどうでしょうか。
ずっと春がこないのはちょっといやですようなんていったら、だってあんたあちぃ時くっつくとすっげー怒るじゃないですかい。ですって。
クーラーもあんまり好きじゃないから付けないでとか…もうあんまりですぜ、とか。
ああもう、可愛いひとですね。ほらほら口を尖らせないで。
だって、春の土手を貴方と手をつないで散歩したいのです。ぽちくんも、一緒に。
やさしい日差しを感じながら、穏やかな気持ちで。
一斉に咲き出したさくらもきっと綺麗。夜桜だって最高なんですよ。そこで熱燗をきゅっとやったら…ふふ、親父臭いって?だってもう爺ですもの。こういう楽しみ方がいいんですよ。
けれど何より、貴方とみるさくらはいつも以上に綺麗だと思うから。
だから早く春が来て欲しいんです。
そういってこてりとその肩に頬を寄せると、貴方はまいったなあなんて顔をする。
それでも往生際が悪く貴方は言うんです。
そりゃあ俺だってあんたとそうやってデエトもしてえですけど。やっぱりこうやってひっついてるときが一番幸せなんです。
こうしていられるだけで、それだけでいいんでさぁ。
…ああもう。私がやられちゃいますから、やめてくださいよう。
付け足された、服来てねえともっといいけどよとかいう台詞は聞かない振りをして。
どうせまた来年も再来年にもくるのですから、いいじゃないですか、と私は言う。
それを楽しみに待つのが醍醐味ですよと。
言った途端にぎゅうと後ろから強く抱きしめられて、慌てたけれど、貴方がじゃあ今のうちに目一杯充電しとくぜぃ、次の冬までに備えて。なんて言うから。
ああもう。
私もそうしようと思ってその腕にがっちりと抱きついて頬をすり寄せたら。
やっぱ冬がいいや、なんて貴方がもう一度ぼやく。
私は何も言わずに、小さく笑う。
めぐる季節を貴方と感じる喜びを噛み締める。
春が早くくれば良いのに。
と私がいうと、貴方がくっつきにくくなるからいやでぃなんていって、頬をすり寄せてくれるのです。
私はそれが嬉しくて、何度だって、何度だって「はるが早く来て欲しい」って、きっと、きっと言ってしまうのです。
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