「おめでとうございます」
意気揚々と玄関を開けたら、何故かいきなりばたんとそのまま閉められた。
イルカの表情も確認するスキもなかった。
…あれ?
どうにもこうにも訳がわからない。
今日誕生日を祝いますから遅くならないように家にきて下さいねといったのはイルカだ。
なのに何故いきなりこんな仕打ちを受けなければならないのだろう。
しかもおめでとうと一言告げられたのちの行動。
イルカはたまにわけの解らないことをするけれど。
なにもこの今にしなくたっていいとカカシは思う。
「ちょ、ちょっとイルカ先生!なにするんですか!」
近所で騒ぎ立てられるのを非常にイルカは嫌うから、こうやって叫ぶのはあまり得策ではない。
けれど意趣返しもこめて、戸を打ち名前を呼ぶ。
だって去年も昨年も…ずっと暖かく迎えてくれたじゃない。
付き合いだしてから毎年。
なんだかんだいっても、嬉しそうにして祝ってくれたじゃないか。
夜は当然とばかりに無茶もしたけれど…今年もきっとそうだと思っていたのに。
あんまりじゃないか。
「…すみません。もうちょっとだけ、もうちょっとだけ、まってください…!」
「…?」
何を待つと言うのだろうか。
もしかして料理がまだ途中だからと言うことなのだろうか。
ならばカカシも手伝って一緒に完成させればいいことだろうに。
カカシの誕生日だから…自分は手出しできないのだろうか。
イルカらしいが、一緒にいることのほうが世程大事だとカカシは思う。
「料理とか…まだ出来てないとかですか?俺手伝いますよ」
そういうとイルカはあせったようにいや、違うんですけど…と返してきた。
…それも違うの?
ひょっとしてカカシを驚かせようとして…何かを用意しているとか…?
去年もなんかいろいろ考えてくれていたような気がする。
まあ全てはカカシが初めからがっついたせいでイルカの目論見は見事にくずれたのだが。
そのことに関しては後からこってりと怒られた。
まあ去年のこともあるし…それならうなずけれるけれど…。
「…なんかあるんですね…?じゃあ用意が出来る迄俺、何処かにいってたほうがいいですか?」
少し拗ねたように…まるで子供のように言ってしまう。
こんな言い方をすればイルカがどういった反応をするかなんて解り切っている。
焦って引き止めてくれるのだ。
それが目的の確信犯なのだけれど。
だが。
イルカは……そうしてくださってもいいですとぼそぼそといった。
まるでそのまま帰ってくれても構わないのだがとばかりに。
…さすがのカカシもこの返事にはかちんときた。
来いといったのはイルカだ。
祝ってくれるといったのはあなたじゃないか!おかしいじゃないか!
いくら理由があるからとはいえ…カカシを喜ばせることを考えてくれているとはいえ…決してうれしいことではない。
「…わかりました…じゃ、ちょっとそこらへんぶらぶらしてきます」
そういって扉から遠ざかるような素振りをみせてれやれば、扉の向こうからは明らかにほっとしたようなイルカの気配が伝わってくる。
ぷっちりとカカシは切れた。
ならこちらも勝手にしてやる。
だって誕生日だ。ちょっとぐらい俺の勝手したっていいんだもん。
これは、昨年迄の付き合いの積み重ねで解っていることだが…イルカは記念日などといった特別な日にはすこぶる甘くなる。
昨年のことにしたって…怒っていると言っても表面ばかりの時が多い。
もっとも腰の抜けた状態で何をいっても、今一つ迫力がなかっただけなのかもしれないが。
カカシは印を組むと、瞬身の術を発動させる。
遮蔽物も無視しすり抜けるような高等なものなのだが、チャクラを結構な量消費するものだから、通常任務以外では使おうとはあまり思わない。
だが無駄に上忍なだけあって、こういうことが簡単に出来てしまう所がイルカにとっての最大の不幸だろう。
「へ?」
てっきりいなくなっているはずの男がすぐ目の前に表れたものだから、イルカは声も出せずに固まってしまっている。
「ほえ?」
だがカカシも負け時とえらい間の抜けた声を出した。
イルカ以上に目が真ん丸になっている。
なにこれ?
なにこれ?
なんですかっこれ〜!!!
まるで木の葉丸のようにこれこれっと連発してしまう程。
目の前のイルカに目は釘付けだった。
なぜなら、イルカはものすごっい格好だったからだ。
猫耳、虎柄のボディコンのような…ぴったりとした衣裳…しかもミニスカでぎりぎり際どい。しっぽに高いかかとのロングブーツ…もちろんこれも虎柄。
えろえろニャンコ…ちゃん!!
カカシはもう怒っていたこと等何処かに飛んでいき。
もう…大興奮である。
もともとこういったコスプレの類いは嫌いではない。
むしろ好きなカカシではあるが、なにせ堅物なイルカが許してくれるはずもなく。
薦めてみても絶対無理だろうなと諦めていたのだ。
第一、イルカは男でサイズもないだろうし。(ちょっとそう言う問題でもないのだが)
だが奇蹟はおこった。
あのイルカが…
術でもかけないと絶対にやってくれないだろうと思っていたイルカが…!
自ら自分の為に…
えろえろにゃんこちゃん…に…!!
「あ…え…うあ…」
イルカがじりじりと今にも泣き出しそうな顔であとじさる。
今のカカシの顔を見れば…そんなイルカの反応は充分に頷けるのであるが。
今の格好をしっかりイルカは理解もしているようなので、まあ仕方ないのかも知れない。
「!!!!」
恐ろしさのあまり…声も出せないまま。
イルカは発情期の猫よりも遥かに質の悪い…カカシに押し倒され。
「イルカ先生いえ…俺のにゃんこちゃん…焦らすなんて…ひどいひとですね…」
はあはあと息が荒い。
後は…まあ…言うまでもない。
合掌。
何故か毎年同じ結果…ようは翌日の太陽が黄色いといった結果なのだが…これも愛なのかもと諦めてもらうしか他ない。
たまには喜ばしてやりたいとか、変わったこともしてみないと駄目かなあなんて思うのも考えものである。
なんだかんだいっても…イルカはカカシに甘い。
風の噂(紅談)に聞いたことを…今日ばかりは特別だと自分に言い聞かせ、実行してみたもののあまりの自分の格好に恐れをなし。
変態をも通り越してないかこれ…!
カカシとて気持ち悪いと言うだろうと思い(それは杞憂だったのだが)しぶったのが一番悪かったのかもしれないけれど…。
でもまあ…誕生日だから仕方ない。
毎年毎年そうやって許してしまうものだから、ますますカカシは増長するのだが。
来年はもっと覚悟を決めておいた方が良いかも知れない。
いや、もう普段から。
だってイルカはコスプレもばっちおっけーなのだろうとカカシは認識してしまったから。
カカシ先生誕生日おめでとうございます…。
きちんとその言葉が言えたのは、当然まったくというか。日付けが変わってから10時間後だったとか。