「青春!バレンタイン-4」


「ねーシカマルーなんであんなに僕をとめたのさーサスケだってくれるって言ってたのさー」

「…あのなあ…」
結構最後は諦めが良かったから、てっきりあのチョコレートの山には興味をなくしたのかと思っていたが。さすがというか…甘党でもある…チョウジに限ってそれはなかったらしい。
ぶーぶーと口に一杯に頬張りながら抗議するチョウジに、やけたぞと皿に肉を放り込んでやればうわーいシカマルありがとーと機嫌をすぐ戻したが。

ここはチョウジお気に入りの焼肉屋。

周りは肉の焼ける良い匂いで充満している。
というより、目の前で凄い勢いで焼かれていく肉の匂いが大半なのだろうが。しかし…その大量の肉をシカマル自信は…一口も口にしていないのは気のせいではない。

俺はもうくえないもんなこれは…。
自分も喰ってしまったら値段がさらに跳ね上がる。財布の限界を考えればこれ以上の追加も勘弁して欲しいのだが。言ってしまったものは仕方ないのだ、もともと覚悟の上で来たのだから。

「はふはふーおいしーっシカマルもたべなよーおいしいよー」
「…いや、俺はいいよ。お前が全部くえよ」
見てるだけでも食欲がうせるっつーの。
それ半分、財布心配半分でシカマルは唯一タダの水を啜る。

「…んでさーなんで?」
ぶふうと水を吐きそうになりながら、チョウジのチョコレートへの執着心に頬を引きつらせる。
「…おまえなあああ…」
「いいじゃん、僕だってあっさり引き下がってあげたじゃないー」
「!?!って…おまえ、俺の意図に気付いてたのかよ…あーーもう、くそ!奢り損かよっ!」
「ちがうよー薄々勘付いたくらい?シカマルが僕に焼肉奢ってくれるっていったからわかったんだ」
もりもりと肉を平らげながらいうチョウジがちょっと憎らしい。
付き合いが長い分やはり、その食べ物への執着も良く解っているから、これ以上攻める気もない。が、これだけはとシカマルは唸る。
「…これ以上のお代りはおまえもちだ、チョウジ…」
「んー…まだまだいけるのに…しかたないなあ…わかったよう…」
さすがに罪悪も感じているのか、チョウジはこの妥協案にしっかり頷いた。
これ以上の出費は免れたと胸をなで下ろしながらも、そういやそうだよなとシカマルは思う。
これくらいでチョウジが普通諦めるはずもない。しかもしっかりくれるとまで約束したものを反故にして、自分に付いてくるなど考えられない。
しっかりとチョコレートの紙袋を持って、ここにいるのが一番普通なパターンだ。
…動揺してたのかね。俺も。
そういえばサスケには悪いことをしたのかもなあと今さらちょっと反省するけれど、ああするのがあの場は一番だったと思うからちょっとぐらいの不快は許して欲しいものだと思う。

ま、あれくらいでへこむようなやつでもないしなあ…。
おかわりしようかなあと悩んでいるチョウジにシカマルはことの次第を説明する為にもと口を開いた。
「気付いてたんなら話ははえーな、ま、いのに殺されたくなかったってのが本音かねえ…」
「…いのに?」
ぱちくりと目をしばたかせたチョウジに、シカマルはちらりと視線を送った。

「あの中にはいののチョコレートもあったんだよ。俺は義理をもらったんだけどよ。あ、お前も今日中には絶対もらえると思うぜ、だからそう睨むなって。…そんとき聞いちまったんだよ」





『はい、シカマルあげるわよ〜んま、義理だけどねっ!三倍返し期待してるから!』

『ありがとよ…』

少し気恥ずかしくなりながらも、綺麗に緑色の包装紙でラッピングされたそれを受け取る。
女ってのはどうしてこう、こまめなんだろうな。
しかし、三倍返しってなんだと思いながらも、きっとそうしてしまう自分も同時に思い浮かんで少々情けなくなるが…。
恐怖政治は恐ろしいぜ?なんて言い訳に逃げるのがすでに尻に敷かれている証拠だとは、シカマルも気付けはいない。いや気付かない振りをしているだけかもしれないが。

『ま、本命は解ってると思うけど…ふふふふふ…今年はひと味もふた味も違うんだからっ…絶対あたしとサスケくんは付合うことになるからっもーきゃーきゃーっvvあ、だからこれからあんまり付合ってもらうことないかもねえ…妬いちゃだめよ…し、か、ま、るv』

…きっとその時の自分は凄い顔をしていたに違いない。
…そのあと速効で脳みそが揺れる程の衝撃が襲ったから。

『なによその顔はっ無理無理ぜってーむりって顔はあああ!?あのチョコを食べればサスケ君だって絶対私への気持ちに気付くんだからっ!あーサクラの泣く顔が見えるわ−』

ほほほほと高笑いする、幼馴染みの…その台詞には当然不穏なものが感じられ。

『…いの…おまえ…もしかしてチョコレートに…サスケにやったチョコレートになんか…入れたのか!?』
『…あ、あら…ば、ばれちゃった?』
『ばれいでか!おい、犯罪に近いぞ!?それっ』
『えへへ、大丈夫!そんな強いやつじゃないから〜!自分の奥深くに秘めた思いに気付くだけよ〜ちょっとだけ開放的になるの!シャイなサスケ君にはぴーったりでしょっ!』

ひくりと頬が引きつるのをシカマルは自覚する。

『おいおいおいおい…勘弁してくれよ…』
『なんでシカマルがこまんのよ?やっだ、あんたのには入ってないから安心しなさいよ!』

明後日の方向を指し示す回答に、違うと叫ぼうとすれば…ばんばんと肩を叩かれ。

『ま、そんなわけだから。すぐにあたしたちは相思相愛ってわけよ〜。もう完璧、ララーン♪サスケ君はわたしのものよ〜♪』

脳天気にそう謡いながら去っていったいのをシカマルは、脱力して見送ることしか出来なかった。




「…というわけだ…」
「…へええええ…だから…なんだ〜…」
それでも能天気な返事を返すものだから、脱力。いやこれはまだ気付いていないだけだ。
論点はそこではない。チョウジがそれを食べることになっていたかもしれないという可能性だ。
「…おまえが食べてたら、俺は半殺しじゃすまねえだろうからな…そしておまえもな…」
ぎくりと強ばったチョウジは、ようやくことの次第の恐ろしさに気付いたらしい。
「…僕…サスケのチョコ、たべなくて良かったよ…ありがとうねシカマル〜まだ死にたくないもん僕、これからもこうやっておいしいものいっぱい食べたいもんね…」
わしわしと肉を引っ付かみながら、喋るチョウジにもうちょっと味わってくえよと思いながらもシカマルはまた水を啜る。
「…俺もだ。サスケには悪いことしちまったが命には変えられねーからな」
「うーんそれに関してはちょっと僕ノーコメントっていうか…素直にいっといたほうが良かったんじゃないの…?あ、おねーさん肉追加〜!」
ウェイトレスを呼び止め皿に追加の肉をオーダーして…むぐむぐと頬張るぺ−スも変えずにチョウジが言うから、いのの恐ろしさを良く知っているシカマルはついエキサイトしてしまう。

「あほか!それには媚薬がはいってますからくわないでくださいなんていってみろ!サスケが怒り狂っていのに絶交とか叩き付けてみろ!?それこそいのに何されるかわからんわ!」

食器を浮かせる程強くテーブルを叩いたせいで激しい音がした。
けれど。

そう叫んだ途端…、何故か…怒りのオーラが店の入り口の方から舞い上がった。
え、嘘だろうと振り返りたくない気持ちも押さえ込んで、嫌々…振り向いた時に…入り口ののれんあたりでしっかりとシカマルは良く見知っている人物を認めた。

…あの…いのの最大のライバル…春野サクラ。

「…あ、よ、よお…さ、サクラ…」
「あーサクラも食べに来たの〜おいしいよー」
チョウジが手招きをするのを、まてまてと止めるのも阿呆らしくて。
どうも家族で焼肉を食べに来たとこらしいのは良くわかったけれど。
そんな分析は誰だって出来るのだから、今のシカマルは普段の彼とは違い、どうにもパニックに陥っているのだと言えよう。

「…め、めんどくせえことにっ…」
このタイミングの悪さにびっくりと言うかなんと言うか…。
ごごごごごごと音を立てて高まっていくそのチャクラのオーラはアカデミー生とは思えない程凄まじい。
恋する乙女は恐ろしかった。
いの、然り。

「いのおおおおおお!ゆるさないわああああああ!今日こそぶっころーーす!!」
あたりに轟く、乙女とは思えない咆哮。

…終わった。なんかもう…いろいろ…終わってしまった。

唖然呆然とする…恐らく家族だろう人々を残し、一気に駆けていったサクラを追うことも出来ず…シカマルは椅子の上で蹲った。
なんだか怒りマックスのサクラの後ろにやたらとでかいもう一人のサクラが見えたのは気のせいだろうか。いや、気のせいではない。そのうちさらにパワーアップして登場する内なるサクラの元だろう。
そんなサクラにさえ気付かず。怒りのオーラをモノともせず…未だもぐもぐと食べ続けているチョウジ。
「…あーもったいないねえ…こんなおいしいの食べないで帰っちゃったよ〜あれ?どうしたの?心配性だなあ、シカマル〜大丈夫だよ〜だってサスケは知らないんだし…」

…お前は大物になるよ…まじで…。

能天気なその声に、いや今までの苦労が水の泡になった瞬間に…シカマルは全てを投げ出したくなっていた。
あーめんどくせえ…。
空に浮かぶ雲に本気でなりたいと思ったのは…いつものことだったけれど。心底想ったと言うのも…これから身に降り掛かるだろう災難を思えば…仕方がないことなのだろうから。


結果は何をしても変わらなかったのだから、まあこれでいいといえば良かったのかも知れない。

いの特性のチョコレートを食べた者が自覚するもの。
それは淡き想い。しかもちょっとでなくかなり効いた。

唯一の誤算は…それをもう一人の別の人間が、食べたこと。
ひょっとしたら自分でも気付かない程の小さな感情だったかもしれないそれを秘めていた二人が。

さて、青き春は始まったばかり。どちらに転ぶかは本人次第。





シカマルの未来も然り…?






20060214了



…ブラウザ閉…