「ひっ!やっあ」
イルカの声に今にも泣き出しそうな悲哀が混じるけれど、カカシは止めようともせず、いやその声に余計煽られて…その手をさらに滑らせた。
「や、や、こ、こわいっかかしやめてっ!やだ、っあ!」
涙の混じる…その悲鳴とともに…ごつんと頭に星が振ってきた。
「…はい、そこまで」
あまりの衝撃にカカシは暫く、呻くことしか出来ない。
くわんくわんと頭に大きな衝撃が反響して、しばらくくらくらしたけれど、しっかり…頭に登った血はおりていったようで…。
何をするんだと叫ぼうとした、カカシは目の前のイルカに…目を見開いて、言葉を失った。
イルカは…顔をくしゃくしゃにして…ぼろぼろと涙を流して泣いていたのだ。
肩を小刻みに震わせて…。
何時の間にか…きっとカカシの結界を壊して入っただろう…先生にイルカが抱きかかえられてゆっくりとその背を撫でられていることも…今はどうでも良かった。
なんてことをしてしまったんだと…自分のやってしまったことに、カカシは真っ青になった。
「い、イルカご、ごめんっ」
怖がられるまでやるつもりなんて全くなかった、本当にちょっと触れるだけで良かったのに。
つい気持ちよさに我を忘れた。
謝りたくてイルカに解って欲しくて、縋るように手を伸ばしたけれど。
…伸ばした手はびくりとおびえるように反応したイルカと…先生の腕に阻まれて、カカシはうなだれる。
こんなにも…怖がらせてしまったという…ひどい罪悪感がカカシを襲って止まない。
こんなふうにしたい訳じゃなかったのに…。
大切に、大切にするつもりだったのに。
なにが、ちょっとだ。
おとこの衝動なんて…こんなものだと戦場で学んだつもりだったのに…自分は違うのだと馬鹿みたいに思っていた。
なんて浅はかな餓鬼の考え。カカシは自分が恥ずかしくなってたまらなかった。
けれど、嫌われてしまうのは…もうイルカと一緒にいれないと思うと…とてもじゃないが耐えられなかった。
イルカに精一杯謝って…許してもらいたかった。
「ごめん、イルカ。ごめんっつ!」
必死に謝って、カカシは頭を下げた。
許してもらえるなら、なんでもする。
しばらくイルカに会えなくってもいい。だけど、だけど、俺を捨てないで。イルカの世界から閉め出さないで。
カカシは、床に頭をこすりつけて…必死に、イルカに謝った。
イルカはそんなカカシをジッと見つめていたが、ふうとひとつため息をついた。
それにカカシは一瞬、絶縁を叩き付けられるのかと震えたが、振ってきた言葉は許しの言葉だった。
「…カカシ、もういいよ。…おれも…キス、きもちよかったし…カカシに抱き締められるのも嫌いじゃ無いから…」
土下座迄していたカカシの頭を、ゆっくりとイルカのてのひらが撫でた。
もういいよと、いうように。
「…イルカちゃん、ちょっと寛大過ぎ。もっと怒って良いんだよ?」
「…いいの。こわかったけど、もうしないっていってくれたら」
「男のもうしないなんて、信用できないもんだけどね…事、こーいうことにかんしては…」
そう先生が茶化すけれど、イルカの言葉は今度はカカシが泣きたい程嬉しいものでしかなくて。
「…ほんと…っつぐすっ、ごめんねっいるか…もう、二度と無理矢理にはしないから…」
これからもキスさせて。
と…この部分はあつかましいにも程があると省いたけれど、イルカに触れなくなることを考えたらあまりの恐ろしさに鳥肌がたったから…これからは我慢しようとカカシは心に決めていた。
「…うん、ゆるしたげる」
「…ありがと、ごめんね」
ぐすぐすと鼻をすすり、イルカを見つめるともう気にして無いからとばかりに、にっこりと笑うイルカ。
やっぱり泣いている人にはすごくやさしいイルカ。カカシより年がちいさな癖に、まるで小さい子相手みたいにあやすように笑ってくれる。
でもそれだけじゃないのだと信じたい。
自分だけは特別であって欲しい。
なんとか笑い返すと、イルカは手を差し出してくれた。
しっかりと握りかえしてカカシは大切にするのだと再度、心に誓ったのだった。
…見つめあう子供二人に、先生は焦れたのか。
「さてと…喧嘩はオシマイね?せっかくだし…僕達も最後のお祭りの締めにはでよう…ね、カカシ君」
そういうと先生はイルカをだっこしたまま、隠れ家の外に出ていった。
本当はカカシは最後迄イルカと一緒に二人きりでいたかったのだけれど…そんな雰囲気を壊してしまったのは自分だったから行かないという訳にもいかず…。
そうして、祭の最後に行なわれる…何故かキャンプファイヤーの会場迄、三人で並んで…歩いていったのだった。
「ま、今日だけは…お祭りだから…特別ね?」
その帰り道。
イルカはすっかり疲れてしまったのか、お菓子を手にはしっかり握ったままで、先生の背で幸せそうに…くかくかと眠っていた。
二人きりで黙ってイルカのうちまで送り届ける道のりの間に、先生がぽそりと零した言葉。
次イルカを泣かせるようなことがあったら…本当に先生が貰っちゃうからね。
眠ってしまったイルカをよいしょと背負い直して、先生はカカシにウィンクした。
それに、カカシは歯噛みして、ううううとうなり声を上げて睨み付けるけれど、確かにイルカを泣かせてしまったのは自分で。そういわれても仕方ないことをしてしまったのだ。
まさに失態としかいえず…。
「…もうしないよ…イルカの嫌がることは」
ぼそりとそうこぼすけれど…先生はそう?…カカシ君たまにあれだしねえ…がんばってよねとか大人の余裕を見せていた。
カカシは不貞腐れながらも、キャンプファイヤーで一緒にイルカと躍ったことを思い出していた。
カカシの手をとって、オビトに見られたらいやだとか我が儘をいうカカシに…じゃあとばかりにぽんとその頭に…ジャックランタンを被せて、さあ、これで大丈夫と、躍ろうといってくれたイルカ。
カボチャの匂いと篭る熱気に…くらくらして。明るい声に戸惑いながらもはじめて躍った。ちょっとへっぴり腰だったけれど…要は凄くたのしかったのだ。
…お祭りのあとの道は…さみしい。
イルカが眠ってしまったせいもあり、すっかり興奮は冷めてしまった。
月明かりが眩しく照らしてくれるけれど、それがまた更にもう祭は終わってしまったのだと、また明日からの戦いの日々が戻ってくるのだと伝えてくるから。
イルカといちど喧嘩をしたせいもあるけれど…こんなにさみしいことだとはカカシは思わなかった。
今迄馬鹿にしていた自分もちょっと恥ずかしい。
そういえば…今さらながらせっかく、隠れ家迄案内したというのに。
途中から口げんかをしてしまいあんなことになって、最後のキャンプファイヤーに出たせいもあって…用意していた山盛りのお菓子をイルカに渡すことが出来なかったと、思い出す。
当初の計画は何処へやらだ。
キスは出来たけど…いっぱいイルカを怖がらせちゃって…これじゃあセンセに負けても仕方ないよ。
こっそりそう思う。
それでも…まける気はさらさらないのだけれど…。
イルカが被っていた帽子と、持っていた箒とバケツを持ち直してカカシは、早くイルカをお家に送り届けてやろうと先生に声をかける。
「来年は俺もイルカと、一緒にお祭りにいってお菓子をもらいに…まわろうかなとおもってるんだ。先生に…邪魔されないようにね」
もっと心も、身体も強くなって…はやく大人になって…イルカを何からも守ってやれるようになるのだと、心に決めて。
来年の祭はもっと盛大にやるのだと、初めからカボチャを被って練り歩いてやるのだと。
おかしも沢山貰って…ぜんぶイルカにあげるのだと。
月明かりのしたを、ゆっくりと歩いていった。
↓ここから下はちょこっと四イルです。嫌な方は御注意!
「さ、ついたよイルカちゃん」
起きる気配のない、その背の温もりに四代目は苦笑する。
子供で良かったのかも知れないと心底…思う瞬間。
これで手に入れられる程の年なら…自分はどうしていたか解らないから。
なまじなんでも手に入れられてしまうような場所にいるから、きっと歯止めが効かなくなっているだろう。
なんか俺といい、カカシ君といい…やっかいな人に好かれたもんだね。君も。
そう同情するけれど、この気持ちをとめる気もさらさらない。小さな弟子に遠慮する気も。
すうすうと寝息をたてるその顔はあどけない。
けれど、強かなことも知っているのだ。
「…ごめんね、俺には解っちゃうから」
カカシからは見えない角度で…こっそりとイルカの頬に四代目はやわらかなキスをした。
愛しい気持ちをのせて。
その…真っ赤になった…かわいらしい頬を見つめて笑う。
「おやすみ…ね、イルカちゃん大きくなる迄…まってるからね」
そして、いま、ちゅうしたことは…カカシ君には秘密ね。
後が…恐いから。
そう本当はずっと起きていた…イルカの耳もとでささやいた一番の食えない、…この里の化け物の大将はにっこりと笑った。
はっぴいはろうぃん?