「サディクさん」
いつもと変わらない穏やかな、昼休み。
図書館へと続く道を歩いていれば、その途中で必ず出会すことを知っている。
見知った背中に菊が声をかけると、男は振り返った。
「おう」
軽く手を挙げて男は答える。
変わらず白くのっぺりとした仮面を付けている。そのせいで表情は伺い知れない。
ただ、ニヒルにつり上がった口角だけが、決して悪くはないのだろう感情を伝えている。
「こんにちは、今日もお一人でお食事ですか?」
「ああ、中に居るとあの猫馬鹿にからまれますからねい。」
「ふふ、前はここでも絡まれていたではないですか。」
「…あーそうでしたねい。まったく。こっちから逃げてやってるのに、どうしてあいつは探し当てるかねえ…」
菊とも共通の知人を、いや、彼に取っては家族の一人である男を思い浮かべながら、サディクはうんざりとした(だろう)顔で空を仰いだ。
それを追って菊も見上げる。空は何処までも晴れ渡り、雲は数を数えられるくらいにしか浮いていない。
「奇麗ですねえ…穏やかで」
「ああ、ホントにいい天気でさぁ…」
二人でぼんやりと見上げる。穏やかで、気持ちよすぎていつまでもこうしていたい気さえするのだが。
だがこの昼休みに関しては特に、時間が有限にある訳でもない。
名残惜しげに目線を戻すと、半開きになっているサディクの弁当袋が目についた。
何度かの会話でサディクが弁当派なのを知っている。そしてそのおいしいお弁当のご相伴にも菊は預かった事がある。そのとき頂いたのは、水筒に入れてきていたスープ。トマトのスープで程よい酸味と塩味が絶妙な一品だった。
そう、とてもおいしかった。だからこそ中身がとても気になっている。
「あ。」
こっそりと覗き込みんだ菊は声を上げた。
今日の彼の昼飯は面白い事に、菊がこの間簡単でおいしいから好きだと言ったばかりの握り飯だったからだ。もちろんサディクにもスープの礼で食べてもらっている。
彼が作ったのだろうかとつい、興味でじっと見つめてしまっているとサディクが笑って言った。
「…目敏いですぜ。気付いたんですかい?」
「気付かない訳がないでしょう?ふふふ、同じものですけれど、私のと一つ交換しませんか?」
そういいながら、菊は自分の弁当籠を引っ張りだす。
「!…いいねえ…菊さんの手料理がまた食えるなんて感激だねえ…」
何故か腹を抱えて。くつくつと笑いだしたサディクに菊は憮然とした顔をする。何がそんなに可笑しいのか解らない。菊としてはただ、サディクの料理の腕に対する純粋な興味でしかないというのに。
「…何言ってるんですか。味の保証はしませんよ」
「それはこっちの台詞でぃ、あなたのは前の味見でうまいのはわかってんですから」
なんてったってこれも俺の手作りですからね、しかも初めて作ったんですから。笑うのをいつの間にやめたのか、そういってサディクはひょいと菊の弁当かごから握り飯の一つを取り上げた。菊も負けじとサディクの持っている弁当袋から握り飯を一つ取った。
形はとても奇麗。握りの強さ自体も悪くないように見えるが。お味の方はどうだろう?
「では…頂きます。」
そういってぱくりとかぶりつく。
が。
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