「愛の病も酒次第-3」

※※※

「…はあ…」

 空を掻く手が、なんとも空しかった。
 自分の手を見つめながら、イギリスは眉間の皺が深くなるのを自覚した。
 また、やってしまった。
 いつものように、拒否、否定の嵐。馬鹿ばっかり言った挙げ句の果てには、どうでもいいようなことで感謝しろ、だ。
「…俺は馬鹿かああああ!!」
 しかも、引き止めておきながら、言葉のひとつもでなかった。何でも良かった。あんな場面で気の利いた言葉一つでないとはどういうことだ。
 待っている相手がいるというのに、それを引き止められた日本は随分と迷惑に思ったろう。いや、ドイツなんぞ幾らでも待たせておけば良いとは思うが、気使いやの彼の気を揉ませてしまったのは事実だ。
 いや、そもそもあんなところで何をいうつもりだったというのだ。
 イタリアの前でなど、告白もなにもあったもんじゃない。いや、告白なんて出来る勇気等今の自分の何処に有るというのか。売っていたら教えて欲しい程だ。
 そもそも、そんな最終的なことを伝えるでなくても、食事の予定を取り付けるくらいなら誰の前だってできるだろう。
 もう一度、恥ずかしい思いをしようが関係ない。ただ引き止めて言えば良かった。

 けれど、あんな馬鹿なことを言った後でどうして引き止められるというのだろう。
 情けない所しか見せていない。嫌われるような事ばかり言っている。格好なんてぜんぜんつかない。
 どう思われているか、確かめるのさえ怖いのだと言い訳をしている、憶病者だ。

 正直、素直なイタリアがうらやましくて溜らない。
 あのように振る舞えたならば、もっと自分は変わっていただろうか。もっと日本と近付けていたのだろうか?
 けれど、自分は自分だ。随分と昔からこの性格は変わらない。何世紀が過ぎようとも…そう簡単に変わる事なんて出来やしないのだ。
 相手を目の前にすれば、どうしていいかわからなくなってしまう。
 昔からそうだ。
 好意を持つ相手に対しては反対の言葉ばかり出てくる。どうしたって素直になる事が出来ないのだ。
 フランス相手…ならばいくらいっても足りないくらいの罵詈雑言が出て来てもまあ、それは普通だし。それが当たり前なのだけれど。
 だが、好意を持っている人間にたいしても、そうとしか接する事が出来ないとは、情けないったらないではないか。
 いくら思慮深い相手とはいえ悪意の差だとか、態度だけで解るものではないだろう。そもそも日本は人の感情の機微に敏感であるのだが、恋愛ごとにはとんと鈍いようだ。
 いや。気付けって方が、可笑しい。あの態度ではどうしたって無理がある。
 日本のせいにしてどうすんだよ。くそっ、どうして俺はこう!
『御忠告ありがとうございます』
 にっこりと笑ってお辞儀をした日本を思い出す。
 あんな馬鹿のような忠告に礼を言うだなんて、嫌み返しじゃないのか?だなんて。
 いくら普段から意地の悪い奴らに囲まれていて、そんな嫌みばかり受けているからと、卑屈にも思ってしまった自分が情けない。
 日本がそのように思うような男でもない事は良く知っているというのに。
 自分相手だから余計そう思ってしまうのだろうか。ここまで自分に自信が持てないのも有る意味笑ってしまう。


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