「境界のむこうがわ-7」

 やっぱりあれは性的なそれであれでしかなかったらしい。などと気付けたのは、翌日の昼ごろ。

 日本はぐったりとしながら、腰をさすった。
 すいよすいよと眠っているギリシャはまだベッドの中だ。
 よっぽど疲れたのだろうか、日本が起き出してもまだ目覚める気配さえなかった。まあ、今はシエスタの時間でもあるから普通の事なのかも知れないが。
 …まあ、あれだけやれば…当然か。
 失神してから、目覚めた日本にもう一回だけと挑まれた時にはもうしぬとか思ったけれども…。若さってすごいなあ…などと付合った自分も棚に上げてそう思う。もちろん御国柄もあるのだろうが…。
 しかし自身もよく起きあがれたものだと思う。こういう時の律儀さは凄いものだと思う。
 目の前に立つフランスが憎たらしい。何もかも解っていて日本を放り出していったのだから。なによりにやにやと物言いたげにしているのが…むかつく。けれど、フランスを攻めるのはお門違いだとも解っている。
「こりたか?」
「…みっちりと骨身にしみました…」
 立ち上がろうとしたけれど走った傷みに顔をしかめる。
 そんな日本を見てか、にやにや笑いから一転した苦笑いで手を差し出してくれたフランスの手をとった。見栄を張っても…一人では立ち上がれそうにもなかったからその好意に甘える。その意味はしっかりとフランスは解っている様だから。
「でもフランスさんのせいでもあるんですからね、あそこで帰ってしまわれるなんて」
 解っていても多少の愚痴は出る。そう日本がいえば、フランスはそんな顔すっからあいつも心配になるんだろうなと苦笑した。
「おにいさんはそんな野暮なことしませんよー」
 軽くいって笑うオトコにこちらも苦笑で返すしかない。
 確かにフランスはそんな野暮な男ではないだろう。
 好奇心は猫をも殺す。その言葉の意味をしっかりと腰の傷みと共に、その身に刻み込んだ日本だった。

 けれど、本当に嫌われていなくて良かったなんて。
 そう思うなんて、結局、つまり、そういうことだなんて。
 認めるのも恥ずかしいから姑くは見ない振りで、今のままがいい…なんてことも、もう通りはしない。
 今は顔も見るのが恥ずかしいから、手紙だけで今回はさよならするのだ。
 足早に日本はフランスの用意した車に乗り込んだ。こんなとこころまで気を利かせるのだから、笑ってしまう。
「まったく、フランスさんにも適いませんね」
「おにいさんに惚れるなよ!まだギリシャに殺されたくねーからな」
 ウィンクしながら、そう言う男に…日本は感謝した。
 でもちゅー位なら大丈夫だから!ほらほらと頬を差し出すフランスの顔に紅葉を咲かせてやった。それだから台無しになるのだということは言ってやらずに。
 ああもう、ばればれだったなんて、私以外には。
 いいえ、私の心が…すでに彼にはわかっていたのでしょうか?
 …これで私たちの関係は変わってしまったけれど。
 それはそれで、いいのだろう。
 なんだか心が晴れ渡る様なのだから。ずっとこころに引っ掛かっていたものが取れたような。そんな。

 …また次会う時は私も、すきなのだと伝えてみようか。
 時間はこれからも沢山ある。
 境界のむこうがわにある、もの。それを日本も感じたいのだ。

 車がゆっくりと走り出す。
 今日もギリシャの空は彼の心のように晴れ渡っていた。 

 了 200709


 


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