「な、なんでなーん?!!」
アントーニョ・フェルナンデス・カリエドは思い切り叫んで、教室に飛び込んだ。
たった一人の最愛の人。
自分のもだもだな告白にもさらりと嬉しい返事を返してくれた人。それからは疑いもなくラブラブな日々が続いていた…筈だった。
幸せの絶頂だったと言うのに、本日昼休み、これまた楽しい昼食時に腐れ縁の友人から彼と付き合っているのは俺だと宣言された。
初めはなにゆうとんのんと笑い飛ばしたけれど、友人のあまりの剣幕にだんだん不安になり、その場をほっぽり出して駆けてきた。愛しい愛しい恋人の元へ。後ろからちょっとまて、とその元凶の友人が追いかけてきたが、そんなことは今はどうでも良いのだ。
だが、教室に入った途端目にしたのは手をお互いに握りしめ合っている、腐れ縁の悪友その2と愛しくてたまらない最愛の人だった。
だからだから、信じられないと力の限り叫んだ。先程までの流れも取りあえず無視して。
「う、うそやーん!!!なんで!?なんでなん!菊ぅ…あの日の愛の交差は幻やったん〜」
ひとしきり叫び、アントーニョは泣き崩れた。
うそや、うそや信じとうないわ!そう叫びながら。
お互いに愛を語り合い、あーんと食べ合いをした日々は幻だったというのだろうか。
「…何恥ずかしい事をいってるんですか、アントーニョさん…」
しらけた目で叫んだアントーニョを見たのは最愛のその人、本田菊だ。
だが、その顔は普段と全く変わらない表情だったから、そう見えたのは疑心暗鬼に苛まれていたアントーニョにだけだったのかもしれない。
「…ねえ、菊ちゃん。な、んでそのバカと手を握りあってるの?」
ぜえぜえと息を切らしながら、アントーニョの後を追ってきていた悪友その1のフランシス・ボヌワが教室に入ってきた時、耐えきれない様につっこみを入れた。
「…ああ、これは…」
「ははははは!くやしいかお前等っ!これは本田自身が本田を俺のものだと認めた証だっ!けせせせせせせ!」
すかさず答えようとした菊の声を遮り、いつも通りの憎たらしい笑い声全開で笑うのは、悪友その2のギルベルト・バイルシュミットだ。
勝ち誇ったような笑みも、握りしめているその手もまったくもって、気に入らない。かなりむかつく。
今直ぐにも引きはがそうと二人が飛びかかろうとした瞬間、冷静な声が遮る。
「…は?何言ってるんですか、貴方というヒトは。」
さらりと涼しい顔で親指をつかまれ、しかも凄い力を入れられる。
「てめ、何あいつみたいなものい…っついってえええええええええあああああ、ぎゃああああああ。」
声をかけた瞬間に激痛が襲ったのだろう。絹を裂くような、それはそれは鋭い、しかも哀れな悲鳴だった。そして叫んでいる間にもちろん、あっさりと指を外されていた。
「うわあ…めっちゃ痛そう。」
「こういうとこ菊ちゃん容赦ないよね。」
そういいつつ、二人とも外された手に満足しているようだ。飛びかかろうとしている体勢をお互いに認め、ささと体裁を整えた。
「いてっいてっいてええよっ菊、なにすんだっ未来の夫によぉ…」
すっかりに涙目になっているギルベルトから溢れた言葉に、菊が反論する間もなく外野二人が反論する。
「何言ってんの、菊ちゃんは俺のお嫁さんだよ。すでに誓い合った仲なんだからさぁ。」
「ほんまやで、なに寝言いっとんの。菊は俺の嫁さんやで。仲睦まじく、死ぬまで添い合うんやで!」
ここで菊は漸く気付いた。なんだかおかしな事になっていることを。
「???…三人とも何を言ってるんですか?」
真剣な顔でそう菊は聞くが、そんなことはそっちのけで三人の言い争いは始まった。初めから凄い勢いで、こうなると取りあえず、当人の事もどうでも良くなる。
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