夕暮れの、時節が変わる時間。

 そんな短い時間に、二人は出会った。



 初めて、その横顔を見た時、今にも消えそうだと思った。


 ぼんやりと暮れ行く空をうつろな瞳で、見上げたその姿は儚げで。


 そのまま、その濃い橙に溶け込んでしまいそうだったから。




 ※※※



 いつものように、隣村へ出向き、稽古をつけたその帰りしなのことだった。

 日が暮れはじめた頃に、村の青年達に教えている剣の稽古は統べて終わった。
 昼過ぎあたりの早い時間から始めた所為も有るのか、殆どの者がくたくたのようで、ようやく終わった等と口々に呟いている。

 『剣技』と言っても、言う程大層なものではない。
 剣を扱う為の基礎、動作、構え等…ごく初歩的な簡単なことを教えているだけに過ぎない。
 すでに師範代の腕を持つサスケにとっては、ただの準備運動にしか過ぎない程度ものでしかない。これしきで疲れていては先が思い遣られるという位のものだ。
 だがこの辺り一帯には野盗などが出ることも少なく、ここ数年、飢饉もなく豊作が続き、餓えることもなかった。この御時世に非常に稀なことかも知れないが、他人のものを奪ってまで生活しなければならない程、困窮した家は殆ど無い。
 この村には、穏やかで平和という気配が満ちあふれており、剣の本来の使い道である…身を守ることや、敵を屠る為の実践的なことを学ぼうという雰囲気とは程遠いのだ。
 それほど必要ともされていないから、入る身もまるで違うのだだろう。
 人を切り殺す為の剣も、お遊び程度としか捕らえていない人間ばかりだ。普段土いじりがすべての農民にとっては仕方のないことなのかも知れない。だが、ひとたび戦がはじまれば駆り出されるのは彼等なのだ。平和であってもいざと言う時の為に覚えておいて損はないといった思いでやっているのだろう。やはりこの辺りには国同士の不穏な空気はないのだから。

 ごく簡単な基礎でしかない…剣ともいえない初歩しか教えることが出来ないのは、あまり生徒達が優秀でないせいもあるのか。その先を教えるまで、まるで上達しない人々を相手にすることは…サスケにとっては物足りないものでしかなかった。
 もう少し上達してくれればやりがいもあるだろうが…。
 いや、それ以前の気概の問題なのかもしれない。
 目標がなければ、極めることも難しい。
 どんなことでも心の持ち様一つで変わるものだ。
 もともとこんな平和な村で、こうしていることが不思議なくらいなのだから。

 終了を告げると、一同礼をし、解散となる。

 皆終わった終わったと、元の日常に戻っていくために、帰り支度を始める。木刀を布に包み、それぞれの帰路につく。
 サスケも皆に習い、すぐに帰り支度を始めたが、程なくして目の前を大きな影が覆った。
 動じることもなくゆっくりと顔をあげれば、いつものように大柄な男が、ほのかな笑みを浮かべながら立っていた。
「サスケどの、いつも御苦労様です。貴方のお陰で皆、随分と引き締まって来た、本当に感謝していますよ」
 さすがうちはの血だと、手を差し出してくる男にサスケは木刀に布を巻き終えてから立ち上がり、「御謙遜を」とやんわりとその手を避けた。
 どの辺りが引き締まったのだというのだろうか…お世辞にも程があるとサスケは心の中で笑うけれど。続ける言葉はあくまでやんわりとしたものだ。
「俺の腕…いえ、血でもなんでもなく、皆の筋が良いのでしょう」
 形ばかりの笑みを創りながらサスケは言うけれど、皮肉にも取れるそれにも男は意趣返しのように御謙遜をと笑う。
「私は貴方程の方がこんな田舎で燻っている方が可笑しいと思っているくらいですよ。ま、ともあれ、お疲れでしょう?今日こそは…泊まっていくとよろしい。…うちの娘も喜ぶ。村の皆もね…」
 にこにこと笑い、そういって来る男にサスケは目を伏せ、心底申し訳ないと言った顔を創る。
「…いえ、本当に申し訳ないのですが…本日は用向きがあるのです…」





続…


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