「俺達、別れましょうか」








 ぴいぴいと幼い鳥の鳴く声、その羽ばたきが遥か頭上高くから聞こえて来る。

 ふと、その声に空を見上げれば、恐ろしい迄の良い天気だった。
 雲一つない。
 何にも邪魔されることなくどこまでも続いていく、透き通る蒼。
 今迄美しい空に目を向ける余裕もなく、まるで気付かなかったとは…少し緊張し過ぎているのかもしれないと、イルカは息を大きく吐いた。
 大丈夫、きっと旨く…いく。
 自分に言い聞かせる様にイルカは呟く。
 数年ぶりとも言える久方ぶりのAランク任務。しかも長期であろう任務は、自分から随分と余裕を奪っていた様だ。
 しっかりしろとばかりに頬を打ち、イルカは自分を叱咤すると誰よりも早く立ち上がった。
 木々の枝に腰を下ろし、仲間達と共に少しの休憩をとっていたのだが…そろそろ目的地へ足を進めなければならないだろう。
 それ程だらだらとしている時間も実の所あまりない。
 時間が掛かり過ぎれば、それは依頼人への不信の種ともなりかねないのだから。
 この隊の長であるイルカは荷物を背負い直すと、すでにいつでも飛び出せるような体勢になっている同僚達…いや、今は頼もしい仲間達に声をかける。

「じゃ…いくぞ」
「了解…」
「いきますかね…」
「さって、お仕事、お仕事…」

 洋々に了承を口にし、ざざと木々を揺らし共に一斉に走り出す。
 四人とも若くから教職につき、実践から遠ざかっていたとは言え、日頃から鍛練は怠っておらずその移動スピードは早い。

 里を経ってからすでに二日目を数えている。
 目的地迄はもう目と鼻の先だった。
 走り出してすぐに、目的地らしき場の入り口を目の端が捕らえた。
 森が一端…終わる。
 木々から明るく差し込んだ光にイルカは、強く幹を踏み締め、開けた場に飛び出した。
 ざ、と四つの音をそれぞれに立てて地に降り立つ。ゆっくりと顔をあげれば、そこは今迄見たことのない、美しい世界だった。

 一番に目に飛び込んで来たのは、深い深い緑。生命の根源ともいえる、色濃い美しさに目を奪われた。
 そして、それに覆われた合間から飛び込んでくる幾筋もの光。ふわりふわりと舞っていく、蝶たち。
 どこらかしこから聞こえてくる生命の息吹。
 …これは…なんて美しい…
 イルカは感嘆の息を漏らすことしか出来なかった。

 雑然とした人の手の入らない、荒れた森が終わったその場所は…酷く美しい太古の木々が息づく場所だった。 イルカ達、4人の木の葉の忍びは今、深淵の森の入り口である場に立っていた。

 重々しく忍び達の前に立ちはだかる木々は、見上げても上部がまったく見えない程に高く大きな幹を晒している。それはすでに何千年と生きているだろう古代の樹木。
 その木々の間を所狭しと走る緑は色濃く、これも又、太古から生きる植物といえるだろう。
 苔むす、その美しい生命の絨毯は人が入ってくることをまるで、拒んでいるようにも見えた。
 だが、それはまさにその通りであり、本来ならば人が入ってはならない場所の筈で。
 そう、この古く朽ちかけた藁で編まれた縄を潜れば、そこは神域だった。

 いや、神域と謂われている場所。
 否、もはや…人はこの森に住まう神を、神とは認めていなかった。
 祈りをなくし落ちぶれた神等、もう神とはいえないのだと人にその存在を否定された…神。
 だからこそ…イルカはここに立っている。

 神殺し。

 落ちぶれたとはいえ、一度は…神と呼ばれた存在を滅する。
まさに神をも恐れぬ、そんな行為が。
 …だがそれこそが、今回イルカ達が遂行する任務依頼の総べてだった。
 

続…


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